第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞授賞式
2023年11月27日、恵比寿の日仏会館で行われた第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞の授賞式は、多くの文学ファンが集まり、感動的なひとときとなりました。この文学賞は、1990年に株式会社東急文化村によって設立され、先進性と独創性を追求する新しい文学の可能性を評価する目的で設けられています。受賞作品は、毎年異なる選考委員によって選ばれる点がこの賞の特長です。
今年はノンフィクションライターの最相葉月氏が選考委員を務め、川内有緒氏の『ロッコク・キッチン』が受賞作として選出されました。この作品は、文芸誌「群像」で2024年10月号から2025年8月号にかけて連載された内容に基づいています。
受賞記念対談
授賞式の冒頭では、最相葉月氏と川内有緒氏が行う受賞記念対談がスタートしました。川内氏は、国道6号線(通称:ロッコク)を旅しながら変わりゆく風景を見つめ、「人々の暮らしはどうなっているのか」という質問を抱き、約2年間にわたって取材を続けた成果が本作にまとめられています。最相氏は、連載中から強く惹かれていた本書について、「選考期限の終了とともに連載が終わったため、ぜひ選ばせていただきました」と述べました。
川内氏は、作品に込められた独自の手法についても語り、「本と映画を同時進行で制作することで、ストーリーを違った視点から伝えられる可能性があると考えています。必要なら、写真や映像を利用して伝えていきたいという思いからこの取材方法が生まれました」と説明しました。その中で出会った武内さんとの交流が、作品の核心に迫る重要な役割を果たしました。
授賞式の模様
贈呈式では、株式会社東急文化村を代表する嶋田創社長から賞状と高級時計が授与され、その後メルシャン株式会社から特別なシャンパンが贈られるというサプライズもありました。川内氏は、この受賞によって新たなエネルギーをもらい、作品完成への意欲が高まったことを述べつつ、人々との協力があってこの本が成立したことを忘れないようにしていると強調しました。
最相氏も受賞作の意義について「食の問題という視点から、福島で暮らしている方々が何を食べているかはジャーナリズムにとっても重要です。それだけでなく、生きることの根本的なテーマについても目を向ける必要があると思いました」と語りました。
授賞式には、ドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』の共同監督や作品に登場する方々も訪れ、川内氏の受賞を祝福し合いました。福島の今を知ってもらいたいという川内氏の思いは、多くの人々に共感を呼び起こすことでしょう。
作品の背景
『ロッコク・キッチン』は、福島県浜通りを舞台に、地元の人々がどのように食を営み、生活しているのかを描いた新しい形の生活史です。2011年の福島第一原発事故から13年が経過し、地域が復興する中での人々の暮らしを反映しています。作品では、国道6号線沿いの温かくておいしい思い出が描かれ、食を通じて人々の生活や人生がメッセージとして伝えられています。
この授賞式では、単行本が2025年11月に刊行されることが発表され、映画の公開も予定されています。川内氏の作品が、読者にどのような感動と気づきをもたらしてくれるのか、今から非常に楽しみです。受賞の喜びとともに、浜通りの人々への想いを大切にして、その地域の今を伝える作品であることを心から期待しています。