臨床組織科学が照らす日本企業の新たな経営視点
近年、企業の組織風土や人的資本経営が注目されていますが、その実態や機能はどうなっているのでしょうか。株式会社DroRの代表、山中真琴氏が率いる研究チームは、臨床組織科学(COS)を通じて、日本企業の組織風土研究と人的資本経営について新しい視点を提供しています。彼らは複雑系科学や神経科学を基に、目に見えない「相互作用構造」を観察し、分析する手法を採用しています。
COSの基本概念
臨床組織科学(COS)は、組織の安定状態を再生産するための相互作用構造を理論化し、実践に結びつけるフレームワークです。COSでは、組織変革を「個人の行動変容」ではなく、「組織アトラクターの遷移」として捉え、このアプローチにおいて、さまざまな技法が提示されています。具体的には、Field Gradient Theory、Loop Conversion Design、Neural Base Designといった理論が詳細に検討されています。我々の行動がどのように組織全体の動きに貢献するのかを明確にするため、COSは「創発の橋」という概念を用いて、個人の習慣と組織レベルの変革を結びつけようとします。
日本企業の組織風土
日本の企業文化では、風土や文化という言葉が、組織変革の中心に据えられてきました。「風通し」や「心理的安全性」といった言葉は、組織の実態を語る上で欠かせない要素です。COSは、この概念に対して否定的な立場を取るわけではありません。むしろ、組織風土と言われる現象を、観察可能な相互作用構造やフィードバックループの観点から解析することがこの研究の中心です。
組織風土とアトラクターの違い
組織風土がメンバーの知覚する「氛囲気」を表すのに対し、COSにおけるアトラクターは組織が外部からの影響を受けても元に戻ろうとする動的な力を示します。COSの観点からは、「うちの組織は発言しづらい」といった主張の背後にある、誰が発言し、誰が沈黙するのか、フィードバックはどのように行われるのかを観察し、具体的なパターンを紐解くことが求められています。
人的資本経営との統合
近年、エンゲージメントや1on1、リスキリング等、多くの施策が進められていますが、これらは恣意的に導入しても、確実に定着するわけではありません。COSは、これらの施策を「組織の安定状態を再生産する構造の変革」として新たに捉え直します。施策が機能するためには、日々の発言や応答、フィードバックが組織のリズムに統合され、真の相互作用構造へとつながる必要があります。
COSの観察視点
たとえば、日本企業においては以下のような現象が見受けられます:
- - 会議で上位者しか発言しない → 発言者の分布と階層的アトラクターの関係
- - 悪いニュースが遅れて上がる → ネガティブ情報の共有に対する組織の反応
- - 1on1が形骸化する → フィードバックのループの断絶
- - エンゲージメント施策が持続しない → Neural Base Designの不足
- - 心理的安全性がスローガン化する → 構造的条件ではなく文化的目標の扱い
組織風土研究との連携
COSは日本の組織風土研究を取り入れており、単なる置き換えではなく、相互補完的な関係に立っています。COSの特徴的な視点から、多くの施策が実際にはどのように機能しているのか、確認応答や日々のフィードバックが具体的にどのように組織の変革に寄与するのかを詳しく掘り下げることが可能です。
代表の山中氏の思い
山中真琴氏は、COSは単なる数値化や機械的な分析ではなく、組織の「空気」や「風土」といった感覚を丁寧に観察し、理解することを目指していると述べています。人の営みがどのように組織に埋め込まれ、深化していくかを考えることが、COSの意義でもあると強調します。
今後の展開
次回では、COSが提示する検証可能な命題についても触れる予定です。具体的には、6ヶ月というタイムフレームの中での組織の変化や、施策の実践における具体的なアウトカムの評価方法を考察します。これにより、COSを基盤としたより実践的なアプローチへとつなげていくことが期待されています。