深刻化する野生鳥獣被害とその実態
近年、日本全国で野生鳥獣による被害が急速に悪化しています。特に、イノシシ、シカ、クマなどの影響が深刻で、農業や森林業に従事する人々にとっては経済的な打撃が大きく、耕作放棄地の増加を引き起こすなどの深刻な事態を招いています。このような現状において、株式会社日本総合研究所(以下「日本総研」)は、基礎自治体の状況を把握するための包括的な調査を行いました。
調査の目的と経緯
野生鳥獣の被害が広がる中で、住民の安全が脅かされ、さらなる被害を未然に防ぐための対策が求められています。これを受けて、日本総研では全国の基礎自治体を対象に、アンケート調査を実施しました。その目的は、現行の対策の課題を明らかにし、今後必要とされる政策を提言することです。
調査概要
- - 実施期間: 2024年11月19日~12月20日
- - 調査方法: インターネット
- - 対象: 全国の基礎自治体(特別区を含む)1,718団体
- - 回答数: 782団体(回答率45.5%)
調査結果の概要
1. 野生鳥獣被害の状況
調査の結果、97.6%の基礎自治体が何らかの形で野生鳥獣被害を受けていると回答しました。その中でも、74.3%の自治体が被害状況が「拡大している」ことを明言しており、全国的に被害が深刻化していることが分かりました。
2. 野生鳥獣被害対策の実施状況
基礎自治体の95.7%が野生鳥獣に対する対策を講じており、主な取り組みとしては住民による防護柵や罠の設置への支援が挙げられています。具体的には、以下のような対策が行われています:
- - 自宅周辺の防護策の設置サポート(72.5%)
- - 狩猟に関するライセンス取得への支援(66.7%)
- - 情報発信を通じた啓発活動(50.5%)
これらの対策は、地域の住民の自助・共助を基本にしたものであることが特徴です。
3. 扱う課題
調査では、対策を進める上で最も大きな障害として「予算確保」が挙げられました。予算不足は、防護柵の設置やメンテナンス、ハンターへの報酬の支給など多岐にわたる問題に直接的に影響を与えています。さらに、対策を実行するためには、専門的な知識と人材の確保が欠かせないことが挙げられました。
4. 各主体との連携
調査各項目個別の結果として、都道府県との連携は「鳥獣被害防止計画の作成」において71.1%、地域集落との協力では57.2%が確認されましたが、周辺自治体や民間企業との連携はあまり進んでいないことが明らかとなりました。具体的には周辺自治体との連携が42.0%、民間企業との連携が67.8%に留まったことが指摘されています。
5. 今後の提言
日本総研は、野生鳥獣による被害を社会全体の問題として捉え、かつての農村の共生状態を現代に合わせた形で再構築することが必要であると示唆しました。具体的には、「共生圏のリデザイン」を通じて、地域内外のリソースを効果的に活用し、より広域にわたる連携を促進する新たな政策提言を行いました。そして、その詳細はホワイトペーパー「深刻化する野生鳥獣被害に対し社会全体としてどう取り組むべきか」としてまとめられています。
結論
野生鳥獣による被害が日本全体で深刻化していますが、それに対応するためには住民自身の取り組みだけにとどまらず、多様な主体との連携強化や、効果的な政策の実現が欠かせません。今後の施策が現場のニーズに即したものとなることが期待されます。