地域金融機関向けポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)実践ガイダンスの発表
地域金融機関による持続可能な社会の実現に向けた取り組みが、ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)の実践により一歩進みました。最近、地域金融分科会は地域金融機関がPIFを導入する際の指針となる「実践ガイダンス」を公開しました。このガイドラインは、地域の中小企業を支援し、金融機関と企業が相互に利益をもたらす体制の強化を目的としています。
PIFの概念と重要性
ポジティブ・インパクト・ファイナンスとは、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)の原則に基づき、企業活動が社会及び環境に与える影響を考慮し、ポジティブな影響の最大化とネガティブな影響の低減を図ります。このために、金融機関と企業が対話を行い、影響を測るための指標(KPI)を定め、定期的なモニタリングを実施します。
日本では、2019年3月に初めてのPIF取引が行われて以来、地域金融機関を中心に取り組みが急速に進展し、2025年3月末時点までに約1,600件の取引数に達しました。これは、日本において間接金融の比重が高いため、地域金融機関がその役割を果たすことが重要な意義を持つことを示しています。
実践ガイダンスの主なポイント
三層構造モデルの導入
ガイダンスでは、PIFの評価体系について三層構造モデルを採用しました。この構造は、以下の3つの層から成り立っています。
1. コンパイアンス違反や重大事故といった深刻なネガティブ・インパクトを排除すること。
2. ネガティブ・インパクトの管理を行い、経営基盤に関わる非財務事項への対処を進めること。
3. 成長戦略としてポジティブ・インパクトを創出すること。
KPIの設定とモニタリング
さらに、このモデルを通じて企業が生み出すべきポジティブ・インパクトと制御すべきネガティブ・インパクトを明確にし、KPIの意味を定義します。これにより、融資先企業との間で積極的な対話が促進されます。ガイダンスでは、60件のPIF事例を基に、多様な業界における共通KPIも特定されています。
業種別には、以下の8業種において具体的な共通KPIが提案されています:
- - 卸売業・小売業
- - 製造業(食品加工を除く)
- - 食品加工製造業
- - 建設業
- - 運輸業
- - 廃棄物処理業
- - 医療・福祉業
- - 不動産業
こうした共通KPIの設定においては、UNEP FIのインパクト分析ツールと照らし合わせ、国際標準との整合性を図ることにも注意が払われています。これにより、いわゆる「ガラパゴス化」のリスクを回避しながら、取り組みを進めることが可能となります。
経過と今後の展望
本ガイダンスは、約1年半にわたる地域金融分科会の議論を経て策定され、2025年1月以降は、地域金融機関や評価機関のメンバーから成るタスクフォースが設置され、実践的なドラフトが作成されました。今後も継続的にガイダンスは改訂される予定であり、その都度新しい知見や実践に基づいた内容が反映されることが期待されます。
このように、地域金融機関がPIFに取り組むための実践的なガイダンスが整備されたことで、より多くの企業が持続可能な取り組みに参加できる環境が整うことが望まれます。地域社会の発展に寄与するための新たな金融システムが構築されていくことが期待されます。