心肺体力が乳がん発症リスクを抑える可能性
最近、早稲田大学の研究グループが発表した研究成果が注目を集めています。この研究は、高い心肺体力が遺伝的な要因による乳がん発症リスクを低下させる可能性があることを示しました。英国の大規模バイオバンク「UK Biobank」から収集されたデータを基に、閉経後の女性15,199名を対象に行われました。
研究の背景と目的
乳がんは、女性が最も多く診断されるがんであり、生活習慣や遺伝的要因など多くの要因が関与しています。特に、遺伝的要因を評価するために使用される多遺伝子リスクスコア(PRS)が注目されており、個人の遺伝的リスクを明確にするツールとして利用されています。
一方、心肺体力は全身持久力を示す指標で、運動時に酸素を効率よく利用する能力を反映します。これまでの研究において、心肺体力が高い人は乳がん発症リスクが低いことがわかっていますが、心肺体力と遺伝的リスクが同時に乳がん発症に与える影響を評価した研究は少なかったのです。
そこで、この研究では心肺体力とPRSの組み合わせが乳がん発症に与える影響を探ることを目的としました。新たに明らかになったのは、高い心肺体力を持つ閉経後女性では、遺伝的要因による乳がんリスクの上昇が小さくなる可能性があるということです。
研究の実施と結果
研究は10.7年にわたり追跡され、547名が乳がんを発症しました。心肺体力と乳がんのPRSを個別に解析した結果、高いPRSは乳がん発症リスクの上昇と関連があり、ただし心肺体力が高い場合はそのリスクが低下することが分かりました。具体的には、最も心肺体力が低い群に対し、高い群では乳がん発症リスクが約28%低いという成果が報告されています。
さらに、心肺体力とPRSの組み合わせによる解析では、心肺体力が高い女性は高PRSによる乳がん発症リスクの上昇が抑えられることが示されました。特に60歳以上の女性において、この関連性が顕著であり、心肺体力が高いことで乳がん発症リスクの増加が緩和されることが判明しました。
社会的影響と今後の課題
この研究は、乳がんの遺伝的リスクを評価するだけでなく、心肺体力などの修正可能な要因を考慮することで、将来的には個別化した予防戦略を検討する新しい視点を提供します。ただし、心肺体力が高いことが直接的に乳がん発症リスクを低下させることを証明するものではないため、因果関係のさらなる検証が必要です。
研究者たちは、今後も心肺体力の評価を定期的に行い、その変化と乳がん発症の関係を追求する必要性を強調しています。さらに、異なる人種や民族集団における同様の研究が期待されています。
研究者のコメント
早稲田大学の谷澤准教授は、遺伝的な乳がんのリスクが高い女性においても、高い心肺体力を持つことで乳がん発症リスクが小さい可能性を指摘し、生活習慣や体力向上の重要性を強調しました。今後は、この知見をもとにしますます精密な予防戦略の確立を目指すとのことです。
参考文献
本研究成果は2026年10月6日に『Medicine & Science in Sports & Exercise』に掲載され、詳細な情報は以下のリンクから確認できます。
Medicine & Science in Sports & Exercise