ロート製薬が始めたサプライチェーン最適化の実証実験
ロート製薬株式会社(以下、ロート製薬)は、サプライチェーンでの課題解決に向け、2022年6月から富士通株式会社(以下、富士通)と国立大学法人東京科学大学(以下、東京科学大学)との共同研究に基づく「マルチAIエージェント連携」技術の導入を発表し、その実証実験を始めることを公表しました。この取り組みは、複雑化する業務負荷を軽減し、労働環境を改善することを目指しています。
背景と目的
ロート製薬は、医薬品や化粧品の製造を行っており、顧客の幅広いニーズに応える製品展開を行ってきました。しかし近年、サプライチェーンの複雑さが増し、従来の経験や知識だけでは対応しきれなくなっています。このような背景の中、同社は、上野テクノセンターにCPS(サイバーフィジカルシステム)を実装し、工場、倉庫、物流をつなぐデジタルツイン基盤の整備を進めてきました。この新たな取り組みでは、AIが自律的に判断や交渉を行いつつ、供給業者や小売チェーンとの調整を担当し、サプライチェーン全体の迅速かつ効率的な運営を目指します。
CPSの概念は、物理的な空間で集めたデータを仮想空間で分析することで、産業活性化や社会的な問題解決を実現する仕組みです。今回の実証実験は、このシステムを活用することで、より柔軟なサプライチェーンを構築することを目的としています。
取組内容と期待される効果
新たに導入されるマルチAIエージェント連携技術は、CPSとの組み合わせにより、工場や物流の状況をリアルタイムで把握し、以下のさまざまな領域での適用を計画しています:
- - 工場間や倉庫間の輸送ルート、搬送計画の最適化
- - 出荷拠点や代理店の在庫のリアルタイム補充の判断
- - 生産スケジュールや資源配分の自動最適化
- - 災害や需要変動時のリカバリーシミュレーション
このプロジェクトにより、サプライチェーン全体は自律的に判断し改善を進める「進化するネットワーク」としての機能を持つことで、需要の変動が激しい状況でも安定した製品供給ができる体制を確立することが目指されています。また、関連企業間でのデータの共有により物流の効率を高め、CO₂排出量の削減や人手不足の解消にも寄与する見込みです。関係企業が相互に調整しながら業務を行うことで、より高い効率性を持ったサプライチェーンが形成されることが期待されています。
今後の展望
ロート製薬は、2026年1月以降、実際の製造、流通、販売データを活用した実証を進める予定です。この取り組みにより、サプライチェーンに関与する人々の労働環境の向上を図ることだけでなく、製造業の枠を超え、データドリブンで社会課題に挑む姿勢を貫き、ウェルビーイングな社会の実現に貢献することを目指します。
上野テクノセンターの役割
1999年に設立された上野テクノセンターは、ロート製薬の重要な製品である目薬やスキンケア製品の生産拠点として機能しています。2022年には新工場C棟が稼働を開始し、CPSの活用を通じてさらなる製品品質向上を目指しています。この進化する工場は、サプライチェーン最適化において重要な役割を果たすと期待されています。