日立とドコモの共同実証によるAIエージェントの可能性
1. 共同実証の背景
近年、労働力人口の減少や高齢化に伴い、ITシステムを運用する現場では人手不足が深刻な問題になっています。特に社会インフラ向けのITシステムにおいては、複雑化が進み、多様な知識が求められる場面も増える中、日立製作所はこの現状に対し、生成AIを用いたシステム運用業務の効率化を目指して、NTTドコモと共同で実証研究を行いました。このプロジェクトは、日立の豊富なAI基盤の実績とドコモの長年の運用経験を組み合わせることで、新たな業務効率化の道を選びました。
2. 実証実施の内容
本実証では、まずドコモ情報システム部の業務内容を詳しく調査し、その中から特に効率化が求められる業務を特定しました。そして、以下の3つのユースケースに焦点を当て、AIエージェントの開発と試験運用を行いました。
2.1 インシデント事例の検索・対応
インシデント対応時に過去の事例を検索する本システムでは、従来のキーワード検索に代わり、AIがアラートやサーバーの情報から類似事例を自動で特定する仕組みを構築しました。この結果、担当者はAIの提示した情報を元に迅速に対応策を決定でき、業務のスピードアップにつなげました。
2.2 インシデント情報の周知判断・周知文作成
周知が必要な影響範囲を特定する際に、従来は多くの設計書を手動で参照する必要があり、かなりの時間を費やしていました。しかし、新たに開発したAIエージェントは、必要な文書を自動生成し、関係者の早急な周知を支援することが可能になりました。
2.3 パッチの適用判断の自動化
AIエージェントは、月に1度行っていたパッチの適用判定業務を自動化し、作業時間を大幅に短縮しました。従来の作業プロセスを簡略化することで、担当者はより効率的に業務を進めることができるようになったのです。
3. 実証の成果
実証の結果、特にパッチ適用判断業務では54%、関連レポート作成では64%の業務時間短縮を実現する成果が確認されました。これらのデータは、業務の自動化がいかに効果的であるかを示しており、AIエージェントの適用が実際に業務の効率化に寄与することが証明されています。
4. 今後の展望
日立は、今回の実証研究の成果を踏まえ、AIエージェントの実運用化へ向けた取り組みを加速します。また他のユースケースへの展開も視野に入れ、システムエンジニアの業務変革を促進するためにAI技術を広げていく計画です。
5. 結論
日立とドコモのAIエージェントの共同実証は、システム運用業務における新たな可能性を提示し、さらなるITの進化を予感させる成果となりました。将来的には、社会インフラを支える他の業種への応用も期待されています。これにより、システムエンジニアの新たな役割が生まれ、社会全体の生産性向上に寄与することが期待されます。