がん治療後のアピアランスケアと新たなサポートの重要性
がん罹患者の増加が社会問題となっています。日本では、年間約9万人の女性が乳がんをはじめとするがんにかかっており、その数は年々増加傾向にあります。しかし、早期発見や治療技術の進歩により、死亡率は少しずつ低下しています。がんの治療が進むにつれ、患者たちが抱える悩みも変わってきています。それは「退院後の生活」における外見の影響です。
退院した患者が直面するのは、がん治療による外見の変化や、その変化に伴う精神的な不安です。とりわけ、女性にとっては髪や肌、眉毛などの外見が社会復帰の大きなハードルとなります。そのため、がん治療を終えた患者に対する外見ケア「アピアランスケア」が近年注目されています。
アピアランスケアとは?
アピアランスケアは、厚生労働省によって「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」と定義されています。がん治療中および治療後の患者は、外見変化がもたらす社会的な不安を抱えています。これが社会生活や仕事、学業に悪い影響を及ぼすことが少なくありません。
セミナーの開催
10月のピンクリボン月間に際し、「アピアランスケア」に焦点を当てたセミナーがクレアージュで開催されました。ここでは、がん治療による脱毛に対応する治療法やアートメイクを用いた外見ケアが紹介されました。総院長の浜中聡子医師とアートメイクアーティスト・木村明日美氏が講演し、彼女たちの専門分野からアピアランスケアについて解説しました。
抗がん剤治療と外見の悩み
浜中医師は、がん治療における脱毛のメカニズムを説明しました。抗がん剤によって正常細胞も影響を受けるため、毛母細胞がダメージを受け、結果として脱毛につながります。多くの患者は、治療の影響として感じる不安やストレスに苦しむことが多く、再び自分の髪が生えてくるかどうかという不安は尽きません。
脱毛は一般的に治療開始から約2~3週間後に始まり、治療が終了すると再び生えてくることが期待されます。しかし、髪の質やボリュームが以前と同じになるまでには半年から1年の時間が必要となります。また、脱毛が回復しても、色や質感が変わることがあるため、再生後の髪に不安を持つ方も少なくありません。
クレアージュの取り組み
クレアージュでは、「後遺症抜け毛治療」に特化したサービスを提供しています。ウィッグや帽子といったカモフラージュの手段から、患者自身の髪を回復させることを重視するアプローチへとシフトしています。浜中医師によると、昨今は治療を受ける患者の来院数が4年間で約4倍に増加しており、その多くが乳がんによる脱毛を経験した女性です。
加えて、専用の発毛外用薬やサプリメントを用いた治療も行われており、各患者に応じた治療が提供されています。
アートメイクによる外見ケア
木村看護師が前半のセッションで紹介したのは、メディカルアートメイクです。これは皮膚の浅い部分に色を注入する技術で、汗や水にも強く、化粧を落とした際も自然な印象を保つことができます。特に眉毛やまつ毛において、この技術が精神的な苦痛の軽減につながることが強調されました。
脱毛による印象の変化は非常に大きく、特に眉毛がないことは顔の印象を大きく変えます。アートメイクを施すことで、個々の顔の特徴を生かした自然な仕上がりが期待できるのです。
メッセージ
セミナーの最後に、浜中医師と木村看護師は、患者自身が抱える不安に対する理解と、外見ケアの選択肢があることを知ることが重要であると強調しました。彼女たちは、アピアランスケアが患者の精神的な回復において重要な役割を果たすことを信じており、多くの人にその選択肢が広まることを願っています。患者が元の自分を取り戻すためのサポートとして、アピアランスケアが一助となることを期待しています。