推しの逮捕、そして「失敗したオタク」になった私――
韓国芸能界を揺るがした事件。性加害で逮捕されたK-POPスター。彼の熱狂的なファンだった映像作家オ・セヨンは、かつて「推し」に認知され、テレビ共演も果たすなど、まさに「成功したオタク」でした。しかし、推しの逮捕によって、彼女は「失敗したオタク」となり、苦悩の淵に突き落とされます。
「好きだから幸せだった。好きだから苦しい」。オ・セヨンは、同じような経験をした友人たちの声を聞き、彼らの葛藤や苦しみを映画という形で表現することを決意します。映画『成功したオタク』は、釜山映画祭でチケットが即完売、大鐘映画祭では最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされるなど、高い評価を獲得しました。
映画を超えた、心の叫び
本書『成功したオタク日記』は、映画『成功したオタク』の制作過程を克明に記録した、オ・セヨンの初の著書です。映画に収録しきれなかったインタビューや、オ・セヨンの日記、撮影日誌などが収録されており、彼女の心の揺れ動き、葛藤、そして癒しの過程が赤裸々に語られています。
「あの集団のあまり良くない噂が聞こえてきたとき、「違う」とただ否定するだけでよかったのか。知りたくなかったのではないか。知ろうとしなかったのではないか。それとも、知っているのに知らないフリをしたのか。だったら、わたしは傍観者なのか。もしかすると加害者なのか。あの人を愛したわたしとは……。罪なき罪悪感に苦しんでいたけれど、罪がないわけではないのかもしれない。何も知らずに好きだったわたしは被害者だと思っていたけれど、ひょっとすると傍観者だったのかもしれない。苦しい。自分のことが、とても憎い」
オ・セヨンは、自身の心の奥底に潜む複雑な感情と向き合い、ファンとしての立場、加害者と被害者の境界線、そして「推し活」の意味について深く考えます。彼女の率直な言葉は、多くの読者に共感と深い感動を与えるでしょう。
「推し活」は「成功」か「失敗」か?
本書は、単なる「推し活」の記録にとどまりません。「好き」という感情の奥深さ、そして、その感情が私たちに与える影響について深く考察しています。
「推し活」をしながら、すべての瞬間が幸せだったと言った。この言葉に心を痛めている。推し活をしている人はみんな「成功したオタク」なのだろうか。幸せになるという目的は達成できたのだから。だったら、苦しくてつらいオタクは存在しないのだろうか。それとも美化されているだけなのか。本当はどうだろう」
オ・セヨンは、自身の経験を通して、「成功したオタク」と「失敗したオタク」という概念に疑問を投げかけます。そして、どんな状況であっても、ファンは「失敗」ではなく、「愛」を経験したという事実を受け入れるべきだと訴えます。
愛と葛藤、そして癒し
本書は、アイドルを愛するファン、そして「推し活」に人生を捧げるすべての人々に、大きな共感と勇気を与える作品です。オ・セヨンは、自身の苦悩と葛藤、そして仲間たちの声を通して、私たちに「愛」と「癒し」の大切さを教えてくれます。
推しの逮捕、そして「失敗したオタク」になってしまった彼女。しかし、彼女は映画制作を通して、心の傷を癒やし、新たな道を歩み始めます。本書は、そんな彼女の心の軌跡を、感動的に描いたノンフィクションです。