台湾小説『台湾漫遊鉄道のふたり』が受賞
2024年の全米図書賞翻訳部門において、中央公論新社から刊行された小説『台湾漫遊鉄道のふたり』が名誉ある賞を受賞しました。この作品は著者・楊双子によって書かれ、三浦裕子による日本語訳が施されています。英訳版のタイトルは『Taiwan Travelogue』。
この受賞は、米国の著名な文学賞において台湾の小説が初めて選ばれたことで、文学界における国際的な意義を持つ出来事として広く注目されています。これまでにも多和田葉子や柳美里といった日本人作家が翻訳部門で受賞しており、日本文学の影響力を感じさせます。
全米図書賞とは何か?
全米図書賞はアメリカで最も権威ある文学賞の一つであり、個性豊かな作品が競い合う場です。小説、ノンフィクション、詩、翻訳文学、児童文学の5つの部門に分かれており、毎年多くの応募が集まります。この賞は1950年に創設され、アメリカの出版社グループが運営しています。その目的は、優れた文学作品の普及と読書人口の増加を図ることです。
『台湾漫遊鉄道のふたり』は、日本国内においても評価されており、2024年の日本翻訳大賞も受賞しています。すでに5刷行われ、販売部数は12,100部に達するなど、多くの読者に支持されています。
物語の概要
本作品は1938年の台湾を舞台に、日本人作家の千鶴子が台湾人通訳・千鶴とともに心の傷を抱えながら旅をする姿を描いています。料理や食文化に触れながら、彼女たちは絶え間ない内的葛藤と向き合い、複雑なアイデンティティを探求します。作品には、台湾の豊かな食文化や歴史が緻密に盛り込まれており、読者はその魅力を存分に味わうことができるのです。
千鶴子は講演旅行がきっかけで千鶴と出会い、台湾縦貫鉄道への旅に出ます。炒米粉や滷肉飯、冬瓜茶を味わいながら、彼女たちの旅は深まっていきます。しかし、心の奥深くに踏み込めない千鶴に対して、千鶴子はモヤモヤとした感情を抱き続けます。国家間の争いや女性への抑圧など様々な壁が二人を隔てますが、その中でお互いの絆が育まれていく様子が描かれるのです。
本作は、台湾の食文化と歴史を織り交ぜた旅行記でもあり、女性同士による豊かな会話劇としても楽しむことができる一冊となっています。作者・楊双子は自身の作品を通じて、複雑なアイデンティティと文化への理解を深めることを試みています。
書籍情報
- - 書名:『台湾漫遊鉄道のふたり』(原題:『台湾漫遊録』、英訳版:『Taiwan Travelogue』)
- - 著者:楊双子(Yang Shuang Zi)
- - 訳者:三浦裕子
- - 発売日:2023年4月20日
- - 定価:2,200円(税10%)
- - ISBN:978-4-12-005652-9
出版の経緯
本作の出版は、“台湾の面白い本を紹介する”というエージェントからの提案から始まりました。女性が活躍する物語を求める中で、特にフィジカルな体験を通じた新たな視点を提供する作品として選ばれました。今後、日本の読者にさらなる感動をもたらすことが期待されます。