本屋大賞2021年ノンフィクション本大賞:上間陽子『海をあげる』
2021年11月、本屋大賞2021年ノンフィクション本大賞に、上間陽子著の『海をあげる』が選ばれました。この賞は、書店員の投票によって決定されるもので、自らの体験や思いを込めた作品が評価されることが特徴です。特に、書店員が面白い、勧めたいと思った本が対象となるため、読者に対する信頼度や親しみやすさが伺えます。
大賞作品『海をあげる』の内容
『海をあげる』は、沖縄を舞台に、自身の経験や沖縄の現状を踏まえた重いテーマが描かれています。「海が赤くにごった日から、私は言葉を失った」という強烈な一文から始まるこの作品は、著者が抱える痛みや苦しみを丁寧に描写しています。それは、沖縄での美しくも厳しい現実が背景にあり、言葉で表現することの難しさを訴えています。
著者の上間陽子さんは、ベストセラー作品『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』から3年後にこの新作を発表しました。彼女は、身体に残った言葉を聞き取り、丁寧に文章にまとめることで、痛みを抱える生き方や美しい沖縄の情景を読者に伝えています。
ノンフィクション本大賞の選考過程
本屋大賞のノンフィクション本大賞は、例年、二段階の投票プロセスを経て受賞作が決定されます。今年も、一次投票で選ばれた6冊の中から、書店員がノミネート作を全て読んでの二次投票を行いました。その結果、上間陽子の『海をあげる』が見事に選ばれたのです。
過去の受賞作品としては、角幡唯介の『極夜行』や、ブレイディみかこの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』などが挙げられますが、どの作品も読者とのつながりや社会への問いかけが強く反映されていました。
上間陽子さんの思い
受賞に際し、上間さんは自身の執筆過程における苦しみや叫びを表現しました。言葉が破壊される現状の中で、言葉を大切にし、それを届ける仕事を行う書店員への感謝の気持ちを述べています。彼女は、言葉によって人々がつながることの重要性を再認識し、自分ができることを一つずつやり遂げる決意を語りました。
ノミネート作品リスト
2021年のノンフィクション本大賞には、以下の作品もノミネートされています:
- - 「あの夏の正解」早見和真(著)
- - 「海をあげる」上間陽子(著)
- - 「キツネ目 グリコ森永事件全真相」岩瀬達哉(著)
- - 「ゼロエフ」古川日出男(著)
- - 「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」河野啓(著)
- - 「分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議」河合香織(著)
おわりに
『海をあげる』は、上間陽子さんの感受性豊かな筆致により、沖縄の現状とともに私たちの心に深く訴える作品となっています。気になる方はぜひ手に取ってみてください。彼女の思いが詰まった一冊を通じて、私たちの社会について考えるキッカケになることでしょう。