高齢者の薬物管理が急務、日本の医療現場に迫る対策の現実
高齢化が進む日本社会において、高齢者の医薬品の適正使用は、日々の医療現場で深刻な課題となっています。この問題の一因として挙げられるのが、「多剤併用問題(ポリファーマシー)」です。ポリファーマシーとは、高齢者が複数の慢性疾患を抱え、その治療のために多くの薬を服用することによって引き起こされる副作用や相互作用のことを指します。最近、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)の調査によると、国が評価する対策を実施していない病院が約60%に上ることが明らかになりました。
医療現場の実態
高齢者が服用する薬が増えるのは、慢性疾患の影響です。多種類の薬を同時に使うことによって、正しく服薬できていないケースが増加しています。具体的には、飲み間違いや飲み忘れ、さらには相互作用による健康被害も多々発生しています。これにより、家族や介護施設の職員に対する負担が大きくなり、そのことがさらなる医療費の増加を招くという悪循環が生じているのです。
日本政府は、2017年に「高齢者医薬品適正使用検討会」を設置し、毎年高齢者医薬品安全使用推進事業としてポリファーマシー対策を進めています。しかし、その取り組みの実施が病院によってまちまちであることが、今回の調査によって浮き彫りとなりました。
薬剤総合評価調整加算とは
ポリファーマシー対策は、診療報酬の中でも特に注目されています。その一例が「薬剤総合評価調整加算」です。入院患者が入院前に6種類以上の内服薬を処方されていた場合、その処方内容を見直し、適切な指導が行われたときに算定できる加算です。この制度には、薬剤師が多職種会議での提案を通じて、処方変更を行う道筋がありましたが、2024年度からは、会議の場に限らず、柔軟に提案できるようになりました。
この変化に対応するため、GHCは、保有する医療ビッグデータを基に「薬剤総合評価調整加算」の算定状況を分析しました。1117の病院を対象としたところ、実に61%の病院がこの加算を一度も算定していないことがわかりました。また、算定した病院の平均算定率はわずかに2.8%と非常に低い数値でした。
高齢者医療の今後
分析を担当したGHCの湯原淳平シニアマネジャーは、算定率が10%を超える病院がごく少数である現実に警鐘を鳴らしています。彼は、特に多剤投与の患者に対して、入院時に行われる「持参薬鑑別」が、薬剤評価を最適化する重要な機会であると指摘しています。これを活用することによって、適切な薬剤管理を進め、多くの病院が算定率を引き上げることが可能です。
まとめ
高齢者医療は、今後もますます重要なテーマとなっていくことでしょう。ポリファーマシーの問題に取り組むためには、医療機関全体が連携し、適切な対策を推進していくことが不可欠です。薬剤数の適正化や、それに伴う患者の生活の質の向上を目指すために、私たち一人ひとりがこの問題についての理解を深める必要があります。日本の医療現場で求められる進化は、これからも続くのです。