トレッキングポールの効果に関する研究
登山やハイキングの際に多くの人々が利用するトレッキングポール。これを使用することで、登山者の歩行が階段の高さに応じて切り替わるという新たな研究結果が発表されました。本記事では、この研究の詳細とその意義について深掘りします。
研究の概要
山梨大学を中心とする研究グループは、登山時にトレッキングポールを使用することで、人間の歩行様式がどう変化するのかを明らかにしました。特に、階段の高さや疲労の状態によって、歩行の仕方が異なることが分かりました。この研究は、2026年1月23日に国際学術誌『Frontiers in Sports and Active Living』に掲載されました。
歩行の仕組み
人間にはエネルギー効率に優れた二足歩行がある一方で、急な地形や不整地ではその安定性が低下します。このため、登山者はトレッキングポールを使い、身体の負担を軽減し、転倒リスクを減少させようとします。しかしその際、どのように歩き方が変化するのか、そのメカニズムはこれまで十分に理解されていませんでした。
本研究では、トレッキングポールを用いた人間の歩行を四足歩行とみなし、動物の四足歩行研究を応用して解析を行いました。実地での登山を通じて、特に階段の高さに応じて、異なる歩行パターンが出現することを確認しました。
研究の実施方法
この研究は、20名の大学生を対象に実施されました。彼らにはトレッキングポールを持たせ、全長4.2kmの登山道を実践してもらいました。途中には高さ約20cmの低い階段と、約40cmの高い岩場があり、コースの前半と後半で疲労が大きく異なっていました。研究者は、登山の過程で4地点の動作をビデオ撮影し、足とポールが地面に接触するタイミングを細かく分析しました。
この研究では、トレッキングポールを四足動物の前足のように扱い、接地率と対角肢同期率という2つの指標を計算しました。接地率は、足やポールが地面についている時間の割合を示し、対角肢同期率は同側の脚とポールの接地タイミングのずれを示します。
登山中の歩行パターン
研究の結果、登山路の地形に応じて、登山者の歩き方が組織的に切り替わることが確認されました。高さ約20cmの階段では、反対側の足とポールがほぼ同時に動く「対側カプリング」が多く観察され、一方で約40cmの計の場合では、同側の足とポールが揃って動く「同側カプリング」が支配的となりました。また、登山後半でも、低い段差では再び対側カプリングが現れることが分かりました。
社会的意義
この研究の結果は、登山やアウトドア活動における安全指導や用具の設計に新たな視点を提供します。ポールの「正しい使い方」を規定するのではなく、地形条件に応じた歩行パターンの切り替えを理解することが、より安全で快適な登山を実現するために重要と考えられます。また、筋力や持久力だけに焦点を当てず、四肢をどう使うかを考慮することで、幅広い年齢層のハイカーに対応した指導方法を模索することができます。
今後の展望
今後の研究では、実験室環境での解析を通じて、各歩行パターンが持つ安定性や力学的利点を検証していく予定です。人間の動作が環境とどう結びつき、秩序だった構造として現れるのかをさらに解明することで、「動くこと」の理解を深めたいと考えています。