熊本史雄教授の受賞作に迫る
駒澤大学の熊本史雄教授の著書『外務官僚たちの大東亜共栄圏』が第29回司馬遼太郎賞を受賞しました。この賞は、文芸や学術作品の中から特にクリエイティブで将来にわたる活躍が期待される作品に贈られます。本書は、日本の外交の本質に光を当てた労作であり、特に日露戦争後の日本外交に関する独自の視点を提供しています。
受賞背景と作品の内容
熊本教授の作品は、日露戦争以降の日本の外交を多角的に分析し、外務省のエリートたちが国家の行動にどのように影響を与えたのかを探求します。彼は、二十世紀初頭からの外務省内部のいわゆる膨張主義に関する気運を取り上げ、それが外交方針にどう影響したのかを詳述しています。
このテーマは、司馬遼太郎記念財団が述べる通り、ただ単にエリートたちが選択を間違えたのではなく、国家の流れに飲み込まれながらも彼らが行った試みの中に真実が潜むというものです。
また、本書は数多くの外交史料を基にした分析が行われており、外務省の官僚組織全体を考察するヒントを多く提供しています。これにより、単なる成功や失敗の歴史ではなく、官僚たちの葛藤や苦悩すらもエモーショナルに描かれているのです。
目次紹介
本書は以下の章構成になっており、各章で日本の外交史における重要なテーマが扱われています。特に、「満蒙」という概念や日本の膨張主義についての記述が印象的です。著者の深い考察によって、日本の外交の複雑さや、当時の外務官僚たちの考えに触れることができます。
- - 序章: 拡大する権益、継受される思想
- - 第1章: 「満蒙」概念の誕生
- - 第2章: 「満蒙供出」論の提唱
- - 第3章: 「満鉄中心主義」の前景化
- - 第4章: 「精神的帝国主義」論の提唱
- - 第5章: 「東亜」概念の衝撃
- - 第6章: 「興亜」概念の受容
- - 第7章: 「東亜新秩序」の可能性
- - 第8章: 「大東亜共栄圏」構想の実相
- - 第9章: 「大東亜共同宣言」の虚実
- - 終章: 求められる「慎慮」、問われる「外交感覚」
著者の想い
熊本教授は、この書籍を通じて外務官僚たちの苦悩に寄り添い、彼らがどのような選択をしようとしたのかを明確に描こうとしました。受賞の知らせを受け、心を引き締める思いだと述べています。このような背景から、本書はただの歴史書としての枠を超え、読者に深い考察を促します。
結論
『外務官僚たちの大東亜共栄圏』は、日本の歴史と外交の理解を深める上で欠かせない一冊と言えます。熊本史雄教授の洞察に満ちた分析は、我々が未来にどのような選択をするべきかを考えるうえでも大いに示唆を与えてくれます。この機会にぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?