肌の水分状態を評価する新手法
2023年9月15日から18日、フランス・カンヌで開催された「第35回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)世界大会」において、第一三共ヘルスケア株式会社と御木本製薬株式会社が共同で開発した肌の水分状態を評価する新手法が発表されました。この新しいアプローチは、肌の健康を維持するために不可欠な水分の重要性を再評価するものとなります。
水分の重要性
水分は健康的な肌を保つためには欠かせない要素です。これまでの研究は、主に水分の一形態である「結合水」に着目しており、この水分は肌の角層内に存在し、乾燥環境での揮発を防ぐ特性があります。しかし、結合水と一言で言っても、複数の水分の結合状態が存在しており、従来の測定手法ではそれぞれの状態を明確に評価することが難しいものでした。そのため、具体的にどの水分状態が保湿において重要なのか、明確にすることができていませんでした。
新手法の開発
この課題に取り組むべく、第一三共ヘルスケアと御木本製薬は「中間水」や「弱い結合水」と呼ばれる新たな水分状態に注目しました。これらの水分量がスキンケアに及ぼす影響を確かめるための解析手法を確立し、新しい視点から水分状態の評価を行います。また、これらの水分を増やす成分を探索し、化粧品原料のスクリーニングに役立てることを目指しています。
研究で確立したアプローチ手法は、DSC法(示差走査熱量測定法)とラマン分光法による新たな水分評価技術の応用であり、保湿効果をより詳細に評価できる可能性を秘めています。特に、「中間水」および「弱い結合水」を形成する能力の解析が注目されています。
解析方法の詳細
次に、実際の手法についてご紹介します。
1.
超低温DSC法
従来のDSC法を改良し、超低温(-150℃)で化粧品成分の特性を精密に解析することができる手法を新たに確立しました。これにより、「不凍結水」「中間水」「自由水」という3つの水分状態の定量的評価が可能となります。
2.
ラマン分光法
この手法を利用すると、結合力を基にする異なる水の状態を評価しやすくなります。具体的には、「非常に強い結合水」「強い結合水」「弱い結合水」「微かな結合水」「自由水」といった5つの状態に分けて評価できます。
研究成果
実際に行った分析の結果、多くの保湿成分が持つ「水を抱え込む力」が示され、トレハロースやPCA-Naが特に高い中間水量を保持できることが判明しました。これらの成分を使用することで、より良い保湿効果が期待されます。
さらに、実際に使用した際の肌における水分状態の変化も確認され、製造における応用の可能性が広がります。特に、若年層の場合、角層の「強い結合水」と「弱い結合水」の比率が保湿に寄与する重要な要素であることが分かりました。
今後の展望
これらの研究成果により、新しい水分評価技術の枠組みが構築され、今まで見落とされていたスキンケアのアプローチに革命をもたらす可能性があります。今後は「中間水」や「弱い結合水」の研究をさらに深め、高度な保湿効果を持つスキンケア製品の開発を目指します。
参考情報
生活者向けのOTC医薬品を基盤とし、スキンケア製品開発にも注力しています。
化粧品業界において真珠由来成分を活かした製品や受託製造にも取り組んでいます。
この新しい手法が今後の化粧品業界に与える影響は計り知れません。肌の保湿における新たな理解が進むことで、化粧品の進化が期待されます。