無縁社会に生きる母と子の物語
最近、無縁社会と呼ばれる現象が多くの人々の関心を集めています。この社会において、孤立や貧困、DV(ドメスティック・バイオレンス)に直面しながらも、誰からも手を差し伸べられない母子の姿は、私たちに深い感慨を抱かせます。そんなテーマを扱ったのが、株式会社KADOKAWAの新作『その叫びは聞こえていたのに 消えた母子をめぐる物語』です。
物語の背景
本作は、著者であるきむらかずよさんが民生委員としての経験を基に描かれたセミフィクションコミックエッセイです。アカネという若い母親が、困難な環境下で初めての子育てに奮闘する姿が描かれています。彼女の境遇は、過去に友人ナルミが家族と共に突然消えてしまったという出来事と重なります。このように、本書は過去と現在が結びつき、子供と母親が直面する複雑な問題を浮き彫りにしています。
あらすじ
物語は、主人公のカヨコが子供の頃の友人ナルミとその母親が突然姿を消したことを思い出すところから始まります。成人したカヨコは、民生委員として赤ちゃん訪問に伺った際、アカネという女性と出会います。初めて彼女を見たとき、カヨコは幼い頃のナルミを思い出し、胸が締め付けられる思いを抱きます。アカネは若くして子育てに悩んでおり、誰にも頼れない状況にあります。カヨコは、アカネを見捨てることができず、彼女を助けたいと強く思うようになります。
しかし、カヨコは果たしてどれだけアカネを支えることができるのでしょうか?それがかつて自分の目の前から消えたナルミの心の声に耳を傾けることになるのか、彼女自身の状況を見つめ直すきっかけになるのか、物語は深い問いを投げかけます。
児童福祉の現実
作中には、石井光太さんによる解説も収められており、アカネの育児放棄や社会的な背景についても触れています。過去に発達に遅れがあったアカネが、社会からの孤立やDV、貧困などに直面し、結果として子供に悪影響を与えてしまったことは、多くの問題が連鎖的に繋がっていることを示しています。これは、現実の社会においても見られる厳しい現実を反映したものであり、私たちがこの問題について考える余地を与えています。
まとめ
『その叫びは聞こえていたのに」は、無縁社会に生きる母子たちの痛みや葛藤を描いた作品です。KADOKAWAが展開する「シリーズ 立ち行かないわたしたち」の中で、他人事ではない私たちの物語として、ぜひ多くの人に読んでいただきたい一冊です。無縁社会の現実を知り、理解を深めることが、私たちの未来をより良くする一歩となるでしょう。
書誌情報
- - 著者: きむらかずよ
- - 定価: 1,430円(税込)
- - 発売日: 2025年12月11日
- - ページ数: 144ページ
- - ISBN: 978-4-04-685406-3