アートで都市を美しくする手法、シャッターアートとは?
都市において、落書きは昔からの悩みの種であり、交差点や商店街の壁やシャッターに無秩序に描かれることがあります。この問題は特に日本の過疎化が進む地域では顕著で、シャッターを閉じたままの店が増える中、景観の悪化や治安の悪化を招いています。特に「割れ窓理論」によると、些細な無秩序が大きな問題を引き起こすきっかけとなり、多くの自治体は落書き対策に膨大なコストをかけています。
例えば、フランスのパリ市では、年間約6億ユーロを落書き清掃に充てていると報じられています。この金額は膨大であり、こうした取り組みだけでは問題の根本的な解決には至りません。そこで注目されているのが、シャッターにアートを導入する「シャッターアート」と呼ばれる芸術活動です。ただ単に落書きを隠すのではなく、視覚的な魅力を加え、街の活性化を図ろうとするものです。
研究の背景と目的
日本電気株式会社(NEC)と明治大学商学部の加藤拓巳准教授が共同で行ったこの研究は、全国の商店街を対象に、シャッターアートが居住意向を高めるかどうかを探るものでした。従来の視点からの新たなアプローチとして、シャッターアートが街にどのような影響を与えるのか、科学的に検証しました。
研究では、20代から60代の日本全国の1,500人を対象にランダム化比較試験を実施しました。参加者は3つのグループに分けられ、通常の街の景色、落書きが施されたシャッター、アートが描かれたシャッターの写真をそれぞれ提示されました。ここで重要なのは、被験者はシャッターの評価を意識していないため、公平に各デザインの効果を判定できる点です。
結果と考察
結果は以下の通りでした:
- - 通常の街の景色を見た場合: 居住意向38.2%
- - 落書きのあるシャッターの場合: 居住意向35.4%
- - アートのあるシャッターの場合: 居住意向43.4%
このデータから、アートによる街の魅力が居住意向を高めることが示されました。特に、アートが施されたシャッターの方が落書きと比較して居住意向が顕著に高かったのです。しかし、通常の景色と比較した場合の有意差は確認できませんでしたが、これはアートのスタイルや完成度により、さらなる向上が期待される点でもあると考えます。
NECの取り組みと今後の展望
NECは、各種データをもとに空間の持続的な価値と魅力を高める取り組みを行っています。シャッターアートのように、視覚的に人々を惹きつける手法は、都市の活性化に寄与するだけでなく、地域経済にも好影響を及ぼすことが期待されます。今後、このようなアートの力を利用した活動が増え、街全体が活気に溢れることが願われています。加藤准教授の研究成果は、29th International Conference on Knowledge-Based and Intelligent Information & Engineering Systemsで発表され、今後の研究にも注目が集まっています。
アートの理念を通じて、「アート後進国」ともいわれがちな日本でも、地域の価値観のシフトがあるかもしれません。私たちが今後どのように生活するか、街がどのように変わっていくのか、その未来を楽しみにしたいものです。