AIが導く次世代の磁性デバイス設計
概要
東京理科大学の長岡竜之輔博士や小嗣真人教授を中心とした共同研究グループが、新たなマグノニック結晶の探索に成功しました。この研究は、特に量子コンピュータに向けた磁性デバイスの開発において重要な意義を持っています。AIを活用した逆設計アプローチにより、非自明なスピン波の伝搬特性を持つ新しい人工結晶が発見されました。
マグノニック結晶とは?
マグノニック結晶は、スピン波を利用することで情報の伝達が可能なメタマテリアルです。スピン波とは、磁性体内のスピンが連鎖的に振動する際に生じる波のことで、この特性を活用することで熱損失の少ない省エネルギーな情報処理が実現できます。しかし、従来の技術では、最適なナノ構造の設計が難しく、多くの課題が残されていました。
AIを用いた設計プロセス
研究チームは、遺伝的アルゴリズム(GA)と呼ばれる手法を用いて、効果的に構造設計を行いました。この遺伝的アルゴリズムは、自然の進化過程を模倣し、多様な候補構造の中から最適なものを選定します。これにより、特に大きなマグノニック・バンドギャップを持つ新たな2次元マグノニック結晶の検索が可能になったのです。
計算の過程では、スピン波の伝搬特性を可視化するための説明可能AIを活用。これにより、設計されるナノ構造が高性能であることが確認され、多数の候補構造が存在することが明らかになりました。この探求の結果、FeとEuOを組み合わせた新しいトポロジー構造の結晶が発見され、8.7 GHz幅にも及ぶ広いマグノニック・バンドギャップを持つことが実証されました。
自律設計の進化
この研究のもう一つの大きな特徴は、設計空間の可視化を通じて、デザインの柔軟性が高まった点です。多次元尺度法(MDS)を使用して、複数の構造候補の特徴を把握。特に5次以上の高いバンド次数の場合、性能の優れた構造が単一の地点に集中するのではなく、広く分散して存在することが発見されました。これにより、複数の最適解が存在することが示され、設計の自由度が増しました。
今後の展望
この研究成果は、従来の研究アプローチから外れ、特にナノ構造の設計とその性能評価に革命をもたらすものです。AIを利用した新たな設計手法は、マグノニック結晶の他にも、量子コンピューティングやスピン波デバイスにおいて幅広い応用が期待されます。
東京理科大学の小嗣教授は、本研究の結果が次世代の低消費電力情報処理デバイスに寄与することを期待しており、AIと物理学の融合が生む新たな展開は今後の科学と技術の進展に大きな影響を与えるでしょう。
この研究は、2026年7月28日に国際学術誌「Small Structures」に掲載され、国際的な評価も受けています。さらに、同成果は2026年のMaterials Research Society(MRS)Spring Meeting & Exhibitにおいて、Best Presentation Awardを受賞し、高い注目を集めました。
参考文献
- - Small Structures
- - 研究機関の公式リリース