新たな都市交通シミュレーター「ABS」が描く西遠都市圏の未来とは

はじめに

現代の都市は、少子高齢化や新技術の導入、そして新しい生活様式に直面しています。国土交通省国土技術政策総合研究所（以下、国総研）は、これらの変化に対応するため、都市における人々の多様な活動や移動をシミュレーションする「アクティビティ・ベースド・シミュレーター（ABS）」の開発に取り組んでいます。特に今回、静岡県の西遠都市圏に焦点を当て、将来の都市交通施策を分析した結果を公開しました。

ABSの背景と目的

ABSは、全国都市交通特性調査のデータを活用しており、地域ごとに異なる環境や社会状況を考慮しつつ、交通行動を再現できます。このシミュレーション手法は、地方公共団体が抱える財政的な制約や調査コストの課題を克服することを目指しています。国が保有する膨大なデータをもとに、個々の移動状況を高精度で推計することが可能となります。

シミュレーターの特性

ABSには以下のような特性があります。

1. 現況再現性
ABSを用いることで、詳細なデータを費用をかけずに取得し、各都市圏の実態を補完することが可能です。ビッグデータや交通系ICカードのデータと組み合わせることで、現況の再現性が高まります。

2. 多面的な分析
個々のユーザーの属性（年齢、性別、居住地、職場など）に基づいて、活動内容や移動の詳細を分析できます。これによって、交通や健康、環境といった多様な観点からの評価指標を導出し、総合的な都市評価が実現します。

3. 将来予測とシナリオプランニング
ABSは、様々なシナリオをシミュレートできるため、関係者が都市戦略を立てる際のデータを可視化することが可能です。政策の実施や地域性に応じた将来予測が実施できます。

西遠都市圏における実績

静岡県の浜松市を対象に、西遠都市圏でのABSのユースケースを実施しました。プロトタイプ版のシミュレーターでは、実際の移動実態データを用いた補正を行い、再現性の検証が行われました。その結果、現実的な移動状況を概ね再現することが確認されました。

また、都市構造のシナリオ分析も行い、公共交通の利用促進や居住誘導施策ならびにその影響を評価しました。これによって、地域の持続可能性や防災面での効果も考慮された分析が可能となりました。

今後の展開とニーズ

ABSは、地方自治体の次期交通戦略や公共交通計画の検討において、将来の都市構造を見直すための強力なツールとされています。特に、交通施策の優先順位を定めるためのシミュレーションニーズが高まっています。また、研究機関でもABSを用いた機能拡張の研究が進められています。

今後は、ABSを使った都市交通プランニングと産学官の連携を強化し、より具体的な方針やアクションプランを発表する予定です。