テニスの試合で上級者が利用する戦略についての研究が、近年科学誌「Scientific Reports」に発表されました。この研究は新潟医療福祉大学の心理健康学科の山本裕二学科長をはじめとする研究チームが共同で行ったもので、上級者が試合中にどのように戦略を練り、相手を打ち負かすために規則性を利用しているかに焦点を当てています。
まず、研究チームはネット型対人競技の特性を考慮しながら、選手がボールを交互に打つ際にどのように相手の動きをコントロールするかを分析しました。熟練したテニスプレイヤーは、打球コースに規則性を持たせることで相手を操作し、次の動きを予測させる一方で、その予測を裏切ることで試合を有利に進めていることがわかりました。このように、熟練者は相手の動向を観察し、その観察結果を基にした戦略を展開しています。
実際の試合データの解析では、熟練者が中級者に比べてはるかに規則的な配球を行っていることが明らかになりました。特に左右交互に打球することが多く、これによって相手は少しずつ動きのバランスを崩されることが観察されました。この研究は、打球コースをシミュレーションすることで、上級者の行動が如何に計画的であるかを示しています。
また、研究者たちは相手の打球コースに応じて自身の動きを調整する「履歴現象」も特定しました。これは、以前の打球の影響が相手の反応に影響を与えるという現象で、運動の履歴がどのように試合に影響を与えるかを深く理解するための重要な要素です。これまでの研究と同様の結果が得られ、選手たちは全身の動きを活用して、相手の予測を狂わせる行動を取ります。
最終的に、シミュレーションと統計モデルを通じて、中級者の打球コースは上級者のように意図的な規則性を持たず、むしろランダムに近い行動をとっていることが判明しました。これは、中級者がその場の感覚でプレイする傾向が高いことを示唆しています。一方、上級者は計画的に相手を挑発し、予測を裏切ることで試合の主導権を握ることが可能となります。
この研究成果は、テニスだけでなく、他の対人競技における戦略や技術の理解にも寄与する可能性があります。今後、さらに多くの研究が進められることによって、選手たちが競技においてどのように有利な立ち位置を築くのかが明らかになるでしょう。また、テニスを学ぶ多くの人々にとっても、新たな視点を提供する興味深い知見となることでしょう。
この研究は、科学研究費補助金基盤研究(A)「対人運動技能の制御・学習則の解明」により支援されています。
この研究を通じて得られた知見は、スポーツ科学や心理学の観点からも新たな価値をもたらすものであり、今後のさらなる発展が期待されます。