生成AIを活用した社会調査の新たな旅路
株式会社野村総合研究所(NRI)と株式会社TDAI Labは、生成AIを活用した社会調査や世論分析に関する共同研究を2025年10月に開始しました。この共同研究は、両社がこれまでのアンケート調査の信頼性や因果推論の厳密さを基盤にしつつ、生成AIの効率性や柔軟性を生かした新たなマーケットリサーチの形を探求するものです。
生成AIの社会調査への影響
近年、生成AIの急激な進化により、社会調査や世論分析の領域には新たな可能性が開かれつつあります。具体的には、生成AIは膨大なデータから迅速に多様な意見を抽出し、仮説検証を行うため、従来の調査では実現が難しかった社会動向を迅速に把握する手段として期待されています。また、これにより政策立案やマーケティング、社会リスク評価などにおいても生成AIによる「世論再現」や構造的課題の可視化が行われています。
一方で、生成AIを調査に活用する上でのリスクも無視できません。具体的には、同じ質問をしても出力される回答が異なることがあり、これは学習データの特徴や文言の微妙な差異によるものです。また、生成AIの出力は統計的傾向に基づいているため、人間の意識形成や行動動機に基づく因果的理解には限界があります。加えて、学習データに社会的文脈や倫理観に関する要素が含まれている場合、その分析には慎重さが求められます。このように、生成AIがもたらす迅速性や網羅性と、信頼性や透明性が問われる状況が存在します。
共同研究の目的と成果
NRIは長年にわたり全国的な世論調査や市場調査を通して、確立された手法を持っています。一方、TDAI Labはソーシャルメディアデータなどを用いて生成AIによる社会的意識の分析に特化しています。この共同研究を通じて、両社は生成AIを利用した調査の限界や適用可能性を明確化し、人間と生成AIの調査手法を融合させた次世代型社会調査モデルの構築を目指しています。
この共同研究では、AIモデルを用いた模擬世論調査が行われ、質問設計や感情的語彙が回答傾向に与える影響を多角的に分析しています。その結果、生成AIは文脈や言葉遣いに非常に敏感であり、適切な設問設計を行うことで一定の再現性が得られることが明らかになりました。また、生成AIは多様な仮説を迅速に生成する能力があり、人間の分析者はその背景や文脈を解釈する役割を担うことが再発見されています。
今後の展望
今後、両社は以下の三つのポイントに焦点を当てて研究をさらに深化させる予定です。
1. 生成AIによる調査品質指標の開発
2. ハイブリッド型調査モデルの実証
3. 実務展開・サービス化による新サービス開発
NRIの小林敬幸は「社会の意思決定を支える調査にはスピードと信頼性が求められます」とコメントし、生成AIの利点を生かしつつ人間の設問設計力や仮説構築力の重要性を強調しました。
一方で、TDAI Labの福馬智生は「生成AIは新たな視点で社会意識を照らすツール」と述べ、信頼される調査基盤構築への貢献を表明しました。
NRIとTDAI Labは、生成AIと人間の共同作業を通じて、透明で信頼ある社会調査の新たなエコシステムを築き上げ、より良い社会意思決定につなげていくことを目指しています。