五木寛之が描く昭和の思い出
作家・五木寛之が新たに刊行したエッセイ集『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』が、晴れて新潮社から発売された。本書は、著者が昭和に生き、直接言葉を交わしてきた46名の人物との思い出を、鮮やかな筆致で綴った作品である。
昭和のアイコンたちとの出会い
本書では、昭和7年に生まれた五木自身が、戦中世代ならではの視点で、彼が出会ってきた著名人たちの姿を描写している。寺山修司、小林秀雄、徳大寺有恒、八千草薫、秋山庄太郎、瀬戸内寂聴、藤子不二雄Aといった名だたるクリエイターたちとの出会いが、66年の歴史を越えて、読者に深い感慨を呼び起こす。
特に76年の『青春の門』で直木賞を受賞した作家としての五木の視点から、彼らが放った言葉や瞬間への思い入れがひしひしと伝わる。例えば、八千草薫が語った「日本らしい雨期になって欲しい」という言葉には、昭和の時代を生きた彼女ならではの情緒が込められており、読者はその情景を思い描くことができる。
エッセイに込められた昭和の心
このエッセイ集は、単に人々の記憶を再生するだけでなく、それぞれの個性を際立たせる「短編小説」のような形式が特徴だ。五木は、一度の出会いの中でのその人の真実を、一言一句に反映させることに心血を注いでいる。「長大な伝記によって再現される人物像もあるが、一瞬の言葉がその人物の本質を映し出すこともある。」と、彼は著者コメントで語っている。
46の思い出と心の交流
本書の魅力は、ただの個人の回想ではなく、むしろ交流の重みや深い感情にある。五木は一人一人への接触を大切にし、その中で感じたことを丁寧に描写する。たとえば、小林秀雄の「人間は生まれた時から、死へ向かってとぼとぼ歩いていく」といった言葉は、人生を深く洞察する哲学的な響きを持っており、昭和という時代の背景と相まって、読者に深い思索を促す。
昭和の思い出を一冊の本に
『忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉』は、単なるエッセイ集にとどまらず、昭和という時代を色濃く反映した一冊である。46名の人物の存在を介して、五木の独特な視点が、読者に新たな理解と情緒をもたらしてくれる。2025年の戦後80年に向けて、この作品は昭和を知るための貴重な手がかりとなるだろう。読者はこのエッセイ集を通じて、五木と共に昭和への旅に出かけてみるべきだ。
書籍情報
タイトル: 忘れ得ぬ人 忘れ得ぬ言葉
著者名: 五木寛之
発売日: 2025年1月23日
定価: 1,705円(税込)
出版社: 新潮社
ISBN: 978-4-10-603920-1
本書には、昭和の人々との貴重な思い出が凝縮されており、是非手に取ってその魅力に触れて欲しい。