COVID-19重症化メカニズムを解明
新型コロナウイルス(COVID-19)は、感染初期から多くの人々に影響を与え、特に高齢者に重症化のリスクが高いことが知られています。この度、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の研究チームが、COVID-19の重症化メカニズムの一端を明らかにしました。
研究の背景と目的
COVID-19がもたらす深刻な影響は、特に高齢者に関して顕著です。これまでに行われた研究によれば、重症化の際には、体内で強い炎症反応が引き起こされることが分かっています。この現象は「サイトカインストーム」と呼ばれ、ウイルスの排除が難しくなることで病状が悪化します。感染初期の段階でウイルスの増殖を防ぐためには中和抗体が重要である一方、病状を悪化させないためにはT細胞の存在が不可欠です。
特に、抗原特異的CD8+ T細胞はウイルスに感染した細胞を排除する役割を果たします。この研究では、フランスと日本でワクチン未接種のCOVID-19患者を対象に、免疫応答を詳細に調査しました。
研究の主な発見
研究チームの調査によって、重症患者ではSARS-CoV-2感染細胞を除去するための抗原特異的CD8+ T細胞の頻度とその質が低下していることが発見されました。具体的には、感染細胞を攻撃するために必要な因子の発現が少ないことが示唆されました。また、高齢者においては、ナイーブCD8+ T細胞の数が減少し、機能も低下していることが確認されました。これにより、急性COVID-19患者では、抗原特異的CD8+ T細胞の誘導が困難になり、重症化しやすい理由の一端が明らかになりました。
さらに、重症患者の血中で高濃度に存在した炎症性サイトカインIL-18は、抗原特異的CD8+ T細胞の誘導を抑制することも示されています。このことから、IL-18を抑制する治療法が重症化予防やウイルスの排除において重要なアプローチとなる可能性があります。
今後の研究と対策
今回の研究成果は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック対策において、高齢者向けのワクチン設計や新たな治療戦略の開発に貢献することが期待されています。特に、IL-18の役割を理解することで、より効果的な治療法の開発が進むことでしょう。
この研究は2025年1月24日にJCI insight誌に発表される予定です。新型コロナウイルスに対する科学的アプローチの深化は、今後の感染症対策において、ますます重要な役割を果たすでしょう。
研究に関する支援
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発課題によって支援を受けたプロジェクトの一環として実施されました。研究機関としての医薬基盤・健康・栄養研究所は、我が国における科学技術の向上を目指し、さまざまな分野での研究開発を進めています。