日本郵船のシステム改革とその意義
日本郵船株式会社(本店:東京都千代田区)は、経営の高度化に向けてAIを活用したシステム革新を進めています。この度、同社は会計基幹システムを最新のクラウド型ERPであるSAP S/4HANA® Cloud Public Editionに移行しました。このプロジェクトは国内最大規模であり、システム基盤の刷新を図る重要な一歩となります。
新システム導入の背景
日本郵船は、海運事業を中心に業務を展開する世界有数の総合物流企業です。しかし、グローバル競争が激化する中で、変化の速い経営環境に柔軟に対応していく必要があります。そのため、データを基に迅速な意思決定を実現する「データドリブン経営」を目指すことが重要です。
このため、約350社の国内外の子会社が従来利用していた会計基幹システムを一元化し、全社業務の標準化を進めることにしました。この標準化プロジェクトでは、特に5つの主要モジュール(制度会計、管理会計、財務取引管理、資金管理、インハウスバンキング)を導入し、会計基盤を統合しました。
SAP S/4HANA Cloudの特長
パブリック版のSAP S/4HANA Cloudは、SAPが提供する最新のクラウド型ERPシステムです。このシステムは、グローバル標準の業務プロセスを備え、定期的なアップデートを受けることで常に最新の機能を利用可能にしています。今回の導入は、国内でも最大規模であり、広範な業務統合を実現した点でも注目されます。
標準機能の活用による業務効率化
導入に際しては、システムのFit to Standardを徹底し、業務プロセスを標準化しました。この結果、従来およそ450件存在したアドオン機能が約10%に削減され、システムの維持管理の効率が大幅に向上しました。これは、稼働直後の2025年8月に実施される予定のグローバルバージョンアップにも、スムーズな対応を可能にします。
パートナー企業との連携
この取り組みにおいては、日本郵船が主導し、株式会社シグマクシスやSAPジャパンなど、多くのパートナー企業と連携しています。シグマクシスはプロジェクト全体の推進を担当し、海上輸送業務についての豊富な知識を活かして支援します。一方で、SAPジャパンはシステムの標準機能の拡張ニーズに対して、SAP本社と連携を図りながら柔軟に対応を行います。
これに加え、NYK Business Systemsや伊藤忠テクノソリューションズがそれぞれ必要な改修や拡張開発を行い、全体のシステムの整合性を図っています。
今後の展望
日本郵船は、今後もこのシステムのバージョンアップを通じて、最新技術の取り込みを進めながら業務標準化を一層推進していきます。さらに、標準化で整備されたクリーンコア環境を利用して、生成AIを駆使した定型業務の自動化も進める計画です。これにより、高度な分析や提案業務へのシフトを図り、迅速な意思決定を支援する体制を構築していきます。
このように日本郵船は、パートナー企業との協力を基にして、データドリブン経営の実現に向けた新たな社内システム基盤の高度化に取り組んでいます。海運業界全体においても、この試みは先進的な取り組みとして評価されるでしょう。