日本を代表する作家、柚木麻子さんの長編小説『BUTTER』(新潮文庫刊)が、世界文学界の注目を集めています。このたび、権威ある英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳部門の最終候補作にノミネートされたことが発表され、その国際的な評価をさらに高めました。さらに驚くべきは、全世界での累計部数が90万部を突破し、特にイギリスでは40万部を超えるベストセラーとなるなど、国内外で異例のヒットを記録している点です。
英国を席巻した『BUTTER』の軌跡
『BUTTER』は、既にイギリス国内で数々の栄誉に輝いています。特に注目すべきは、「The British Book Awards 2025」のDebut Fiction部門を含む、イギリス国内での「3冠」達成です。昨年11月には、読者の投票によって選ばれる「Books Are My Bag Readers Awards 2024」で「Breakthrough Author」を受賞。同月には、イギリスの大手書店チェーンであるウォーターストーンズが選出する「Waterstones Book of the Year 2024」に輝きました。翻訳小説がこの賞を受賞するのは極めて稀であり、日本人としては初の快挙となります。そして今年5月には、「The British Book Awards 2025」のDebut Fiction部門でも日本人初の受賞を果たし、その人気と文学的評価が本物であることを証明しました。
物語の核心に迫る:美食と社会への問い
本作の主人公は、「フェミニストとマーガリンだけは許せない」と語る謎多き女性、梶井真奈子、通称「カジマナ」。彼女は男たちの財産を奪い、殺害した容疑で拘置所に収監されています。そんなカジマナに惹かれ、面会を重ねる週刊誌記者の町田里佳は、彼女が語る美食の世界に深く絡め取られていきます。物語が進むにつれて、里佳自身の人生観や価値観が大きく揺さぶられ、変容していく様子が描かれます。
『BUTTER』は単なるミステリーに留まりません。男性優位社会への適応、ルッキズムの内面化、身体が悲鳴を上げるまでの労働――といった現代社会に潜む問題に対し、深く鋭い疑問を投げかけます。そして、すべての人が自らを大切にし、ゆるやかに連帯していくことの重要性を問いかける、示唆に富んだ長編小説となっています。
世界的権威「ダガー賞」とは
今回ノミネートされた英国推理作家協会賞(ダガー賞)は、英国推理作家協会が主催する、犯罪・ミステリー小説における世界最高峰の文学賞の一つです。翻訳小説部門は、英語以外の言語で執筆され、英国で出版された優れた犯罪小説(スリラー、サスペンス、スパイ小説を含む)の英語翻訳版に贈られます。5月29日に最終候補作が発表され、『BUTTER』が見事選出されました。栄えある受賞作は、現地時間7月3日に発表される予定です。
国境を越える『BUTTER』旋風
現在、『BUTTER』は35カ国での翻訳が決定しており、その広がりは加速する一方です。イギリスでの刊行を皮切りに、世界各国で大きな話題を呼び、読者の裾野を広げています。昨年10月には、柚木麻子さん自身がイギリスの6都市を巡るオーサーズツアーに参加し、各地で講演会やサイン会を実施。今年に入ってからも、2月にはインド、3月には香港、そして5月にはオーストラリアとニュージーランドを訪問するなど、その活動はまさにワールドワイド。この『BUTTER』旋風は、多くの人々を魅了し続けています。
海外の出版社や翻訳者からも絶賛の声が止まりません。イングリッシュ・エージェンシーの代表取締役社長、ハミッシュ・マカスキル氏は「文化や言葉の枠を超える感情的な真実味が、読者の人間としての本質的な部分に訴えかける」とコメント。イギリスの翻訳者であるポリー・バートン氏も、「英語圏の読者が『BUTTER』からどれほど大きな影響を受けていたかを知ることは衝撃的だった」と語っています。また、アメリカの出版社EccoのVP兼出版社担当ヘレン・アツマ氏は、New York TimesやWashington Post、New Yorkerといった有力紙での絶賛に加え、「『BUTTER』旋風は今後も続くだろう」と期待を寄せています。
単行本の発売から5年以上が経過した今もなお、その勢いは衰えることなく、世界中で愛され続ける『BUTTER』。ダガー賞の行方と共に、この傑作が今後どのような広がりを見せるのか、目が離せません。