フィリピンの水田におけるメタン排出削減技術の検証
兼松株式会社(以下「兼松」)は、Green Carbon株式会社(以下「Green Carbon」)と共に、フィリピン・ブキドノン州において水田由来のメタン排出削減技術の検証を開始しました。このプロジェクトは、二国間クレジット制度(JCM)を適用することを目指しています。
JCMの背景
JCMとは、日本と他国が協力して温室効果ガスの削減に取り組むことで、成果を分け合う仕組みです。この制度は、両国のNDC(国別の温室効果ガス排出削減目標)達成に寄与することを目的としています。日本政府はJCMをNDC達成の重要な手段として位置付けており、2030年度までに累計1億トンのCO2削減を目指していると言われています。また、2026年度には2億トンの削減を目指しています。これに加え、JCMクレジットは国内の排出量取引制度(GX-ETS)でも企業の排出枠超過分の削減に利用可能とされており、今後の需要の高まりが期待されています。
フィリピンでは、GHGの約25%が農業分野からのもので、その中でメタンは水田から発生する割合が約70%を占めています。メタンはCO2に比べ28倍の温室効果を持つため、水田の水を一定期間抜く「間断かんがい(AWD)」が、その発生を抑制する効果があります。この方法は日本の稲作に応用されており、研究によると、従来と比べて約30%のメタン削減が期待されるとのことです。さらに、収量の向上も見込まれています。
2025年2月には、両国政府によりAWDによる水田メタン削減の具体的方法が正式に承認され、世界初の農業JCMクレジットの発行が可能になりました。
兼松とGreen Carbonの目的
Green Carbonは「生命の力で地球を救う」というビジョンを掲げ、カーボンクレジットの創出から登録、販売までを包括的にサポートしています。最近、Green Carbonと兼松は2024年5月に「水田メタン」の抑制と環境配慮米の普及を目指した連携協定を締結し、国内やベトナムでの活動を推進しています。
さらに、兼松は中期経営計画「integration 1.1」の中で「農業・食品GX」を重視し、サプライチェーン全体のGHG排出削減に取り組んでいます。これまでにもバイオ炭や牛からのメタン削減資材などを用いた「カーボンインセット」の仕組みを活用した複数のプロジェクトを進めてきました。
このJCM事業では、フィリピン、ベトナム、タイ、インドネシア、サウジアラビアなどでエネルギー分野における10件の実績があります。これらの経験を活かし、兼松は初めて民間事業者としてJCMクレジットの創出と販売に挑戦し、GXソリューションプロバイダーとしての能力を拡張していきます。
未来の展望
この事業は2026年の本格的な商業化を目指しており、1年にわたりGreen Carbonと共に技術検証を行います。そこで創出されたJCMクレジットは、GHG削減が急務となっているGX-ETSに参加している企業への販売が予定されています。この技術検証を通じて、持続可能な農業の実現を目指し、日本とフィリピンにおけるGHG排出の削減に貢献していく意向です。