「もらいうつ」という言葉について
「もらいうつ」というフレーズをご存知でしょうか。この言葉は公式な医学用語ではありませんが、精神的な負担が他者に影響を与える現象を示しています。風邪のように感染するものではありませんが、心の痛みが周囲に波及してしまう様子を表現しています。特に、支える側が共感をもって接することで、次第に自分自身が心身の不調を抱えてしまうことがあります。今回は、この「もらいうつ」という現象について、精神科医の髙橋一志氏が新たに刊行する書籍を通じて深掘りしていきます。
1. 「もらいうつ」のメカニズム
「もらいうつ」は、産後うつ、介護、そして不登校といった状況において、支える人が気づかぬうちに心の負担を負ってしまうことを指します。具体的な例として、産後うつの妻を支える夫、うつ病を持つ母親を助ける娘、休職中の同僚の業務を引き継ぐことで疲弊する同僚などが挙げられます。これらのケースでは、相手を思いやる気持ちが強いがゆえに、支える側が精神的に疲れてしまうのです。
2. 共倒れの背景
支える人が心の病を抱える理由は、うつ病が単に「気分が落ち込む」だけの病ではないからです。イライラや攻撃的な行動といった形でも現れるため、相手の苦しみやストレスをダイレクトに受け止めてしまう危険性があります。たとえば、産後のうつ病を抱えた女性が周囲の人に辛く当たることで、支える夫もまた精神的なストレスを抱えきれなくなるケースが見られます。
3. 心の距離感
著者は、「もらいうつ」は物理的な距離から生じるわけではないと述べています。実際、遠くに住む親子であっても、心の距離が近ければ影響を受けることがあります。逆に、物理的には近くにいても心の距離が遠いと、あまり影響を受けることはないのです。心の距離感を意識することは、支える側も心の健康を維持するための重要な要素となります。
4. 支える側の見えない負担
うつ病に苦しむ人には治療や休養の機会がありますが、その支え手が同様に助けを求めることは少ないのが現状です。社会的に「支えるのは当たり前」とされることが多く、職場であれば「自分がその分働かなければ」と思い込んでしまうことが、さらなる精神的負担につながります。本書では支える側がどのように見過ごされがちであるかに光を当て、家族や職場の環境における注意点を描きます。
5. 寄り添うための心構え
本書のメッセージは、「寄り添うけれど、寄り添いすぎない」というものです。うつ病の原因は単一ではなく、それを取り巻く環境全体を理解することが重要です。ストレスマネジメントや生活習慣の見直し、感情の扱い方について具体的なアドバイスが提供されています。自分の心を守ることは決して自己中心的な行動ではなく、支える相手への配慮につながります。
6. まとめ
家族や友人、職場の同僚にうつ病を抱える人がいるとき、その支え手が自らの精神的健康をどう守るかは非常に重要です。「もらいうつ」という視点を通じて、心の負担を軽減する方法を学ぶことは、より健康的な人間関係を築くための第一歩となります。この考えを広め、理解を深めることによって、私たちはともに助け合っていける社会を目指せるでしょう。
書籍情報
- - 書名:『もらいうつ』
- - 著者:髙橋一志
- - 発売日:2026年9月1日
- - 出版社:方丈社
- - 定価:1,650円(税込)
- - 仕様:四六判並製・200頁
- - ISBN:978-4-910818-44-3
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著者プロフィール
髙橋 一志(たかはし・ひとし)
東京女子医科大学准教授、医学博士で、秋田県生まれ。日本医師会認定産業医としても働きながら、うつ病の治療と予防に注力している専門家です。