安易な精子・卵子提供の商業化とその倫理的課題を考える
近年、体外受精や卵子凍結などの生殖補助医療技術は多くの人々に利用されるようになりました。特に、2022年4月に始まった体外受精に対する公的医療保険の適用が功を奏し、2024年には国内出生児の8人に1人が体外受精によって誕生する予測が立てられています。こうした背景から「生殖医療は一般化した」と言われていますが、その裏には危険な側面も潜んでいます。
一般社団法人JISART(日本生殖補助医療標準化機関)は、この問題に対して強い危機感を抱いています。特に、第三者からの精子や卵子の提供に関して、十分なリスク対策がなされていないことが懸念されます。その原因として、法規制の不備と需給バランスの歪みの二点が挙げられます。
法規制の空白
日本では、配偶子の「売買」は禁止されていますが、無償提供に関する規定は不十分です。このため、見えない形で金銭が動くケースや、海外からの配偶子をエージェントを通じて購入する事例が増加しています。結果として、「売買の制限」は実効性に欠ける状況です。
需給バランスの歪み
少子化が進む中、クリニックの数は増加し、競争はますます激化しています。こうした状況では、治療の質を軽視したマーケティング戦略が問題視されています。専門的な技術や管理体制が不備のまま安易に提供プログラムを開始する例も見られ、実際にトラブルが発生しています。特に、広告を通じて配偶子提供者を募集するクリニックも存在し、私たちJISARTはこの商業化の波に対して強い危機感を持っています。
JISARTの20年の取り組み
JISARTは2003年の設立以来、日本の生殖医療が抱える多様な問題に向き合ってきました。その中でも特に注力してきたのが「第三者配偶子提供に関する倫理」です。これは単に妊娠率を追求するのみならず、事故のリスク排除やインフォームド・コンセント、スタッフの育成など広範な視野で生殖医療に関わるすべての事象に呼応するものです。
大学病院の撤退
2000年代初頭には、個人情報保護の懸念から大学病院が次々とAID(非配偶者間人工授精)から撤退し、治療を求める患者が困難な状況に置かれました。この状況に危機感を持ったJISARTは、厳格な自律ルールを策定し、患者を支えるための体制を整えました。
日本初のガイドラインの制定
2007年には、法整備が不十分な中で、公的なガイドラインに基づいた卵子提供プログラムを日本で初めて設立しました。「生まれてくる子どもの福祉を最優先に考える」という視点から倫理的な議論を積み重ねてきました。
80年間の記録保存
生まれた子どもの「出自を知る権利」を重視し、ドナー情報を80年間保管する体制を構築しました。これは組織としての責任を強く訴えるものであり、未来の子どもたちの権利を守るための礎です。
未来への提言
生殖医療は、個人にとっての大きな選択であると同時に、家族の在り方を根本的に問い直す行為でもあります。
JISARTでは、第三者配偶子提供を行う医療機関において、外部の倫理審査を受ける仕組みを設けています。判断は医師のみならず、法学者や心理士が参加する「JISART倫理委員会」によって行われます。また、治療を開始する前にはカウンセリングを実施し、安易な決定を回避するための支援を行っています。
私たちはこの20年以上の歴史を通じて、安易な提供の背後にある問題について深く考えてきました。今後も誠実な医療の質を追求し、こうした問題が国民全体で議論され、より良いシステムが構築されることを願っています。私たちの取り組みを通じて未来の子どもたちの人権を守り、幸福な家庭を築くために努力し続ける所存です。
セミナーのご案内
JISARTでは、2024年3月30日にオンラインセミナーを開催します。このセミナーでは、JISARTの取り組みや倫理的なルールについて詳しくお話しする予定です。興味のある方はぜひご参加ください。
詳細はJISARTの公式ウェブサイトをご覧ください。