一庫炭(菊炭)の窯出しが始まる
兵庫県川西市北部に位置する黒川地区にて、市の特産品である「一庫炭(菊炭)」の窯出し作業が2月中旬より始まっています。この地域の唯一の炭焼農家である今西学さん(53歳)は、貴重な伝統と技術を次世代に伝えるため、日々努力を続けています。
一庫炭(菊炭)とは
一庫炭は、焼き上がった炭の断面が菊の花びらのように見えることから名付けられました。この炭は、火のつきやすさ、長持ちする性質、そして煙がほとんど出ず、静かに燃えるという特性を持っています。そのため、特に茶道の場などで重宝される高級炭として知られています。
炭焼きの伝統
黒川地区は、室町時代から炭焼きが盛んに行われてきました。この地域では、炭の原料である良質なクヌギが豊富にあり、炭焼きに最適な環境が整っています。しかし、昭和30年代以降、電気やガスの普及に伴い、炭焼きは次第に衰退していきました。加えて、山間部の宅地開発によって原材料の調達も難しくなり、現在では今西さんの家族だけがこの貴重な「炭作り」を続けています。
窯入れから窯出しまで
炭焼き作業は、「窯入れ」と呼ばれる工程から始まります。今西さんは、奥行き4メートル、幅3メートル、高さ2メートルのたまご型の窯に、長さ1メートル、直径10センチメートルの原木をきれいに立て並べます。その合間には雑木を詰め込みます。そして、火を入れた後、窯内の温度は約800度にまで上昇し、8時間かけて火を回し続けます。
その後、約3日間焼き続け、窯の出入り口と煙突を閉じ、4~5日間の密閉状態を維持します。この工程により、炭がしっかりと焼きあがります。約8日間のサイクルで1回の炭焼きが進行し、その結果、約750キログラムの炭が生産されます。
窯出し作業の厳しさ
窯出し作業は、朝7時ごろから始まります。窯の中の温度は100~120度に達し、一度の作業は約15分程度しかできません。高温の中での作業は厳しく、焼き上がった炭を外に運び出す工程を終えた後は、外でしっかりと体を休めます。この作業は5月中旬頃まで続く予定です。
現代では忘れられがちなこの伝統的な技術も、今西さんの手によって次世代に引き継がれています。一庫炭(菊炭)は、ただの炭ではなく、黒川地区の文化を象徴する貴重な存在です。