幽霊を信じない理系大学生と、自称・大正生まれの霊媒師の奇妙な出会い
「横浜駅SF」や「まず牛を球とします。」など、革新的なSF作品で注目を集める作家・柞刈湯葉の新作長編小説『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』が、6月26日に新潮文庫nexより発売されました。
本作の主人公は、他人の気持ちが理解できないことを悩み、理屈っぽい18歳の理系大学生・谷原豊。曾祖母の死をきっかけに、謎の霊媒師・鵜沼ハルと出会います。自称・大正生まれのハルは、幽霊が見えず存在を信じない豊に、奇妙な”慰霊”のアルバイトを依頼するのです。
ハルは、豊に「幽霊は信じない、けどあなたのことは信じる」と語りかけます。この言葉が示すように、物語は幽霊の存在よりも、むしろ人間同士の心の触れ合い、そして成長を描いた、ハートウォーミングな作品となっています。
豊は、ハルとの奇妙なアルバイトを通じて、自身の心の奥底にある感情や、周囲の人々との関係性に気付いていきます。そして、この街に隠された秘密、ハルの正体へと近づいていくのです。
爽やかな青春SF、モラトリアムの時間を彩る
本書は、SFという枠組みを用いながら、青春小説としても楽しむことができる、まさにジェントル・ゴースト・ストーリーと言えるでしょう。
モラトリアムの時期にある豊の成長、そして周囲の人々との関係性が、爽やかな筆致で描かれています。個性的なキャラクターたちが織りなす、予測不能な展開にも注目です。
柞刈湯葉が描く、すこし不思議な世界観に浸りながら、自身の心の奥底にある感情と向き合ってみませんか?
著者紹介
柞刈湯葉(いすかり・ゆば)は、小説家・漫画原作者です。福島県生まれ。2016年に『横浜駅SF』でカクヨムWeb小説コンテストSF部門大賞を受賞し、デビューしました。著書に『重力アルケミック』『未来職安』『人間たちの話』『まず牛を球とします。』『SF作家の地球旅行記』などがあります。
書誌情報
書名: 幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする(新潮文庫nex刊)
著者: 柞刈湯葉
発売日: 2024年6月26日
定価: 781円(税込)
ISBN: 978-4-10-180287-X
読後感:心の奥底に温かい光を灯す、不思議な物語
『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』を読了し、私は心の奥底に温かい光が灯ったような感覚に包まれました。
物語は、幽霊の存在というミステリー要素だけでなく、主人公・豊の心の成長、そして人間関係の温かさを丁寧に描き出しています。
豊が他人の気持ちが理解できないという悩みを抱えながらも、ハルの存在を通して少しずつ変化していく様子は、読者自身の心の成長にも繋がるのではないでしょうか。
また、SFという枠組みの中に、現実世界とファンタジーが絶妙に融合している点も魅力的です。
ハルの正体、そして街に隠された秘密が明らかになっていく過程は、まさにジェットコースターに乗っているような、スリリングな体験でした。
しかし、物語の核心は、幽霊の存在ではなく、人間同士の繋がりにあると感じました。
豊とハルの関係性、そして豊と周囲の人々との関係性は、まさに「温かい」という言葉で表現できるほど、繊細かつ力強いものでした。
この作品を読んだ後、私は改めて人間関係の大切さに気づかされました。そして、自分の心の奥底にある感情と向き合うことの重要性を再認識しました。
もしあなたが、心の温まる物語を求めているなら、ぜひ『幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする』を読んでみてください。きっと、あなたも心の奥底に温かい光を灯すことができるはずです。