異文化体験と写真の魅力
旅に出るとき、多くの人がカメラを取り出す理由は様々だ。新しい風景を記録したいという思い、友人や家族との思い出を共有したい、あるいはSNSにアップするためなどだ。その一方で、旅の途中で撮影する行為は必ずしもスムーズにはいかない。重いカメラを持ち歩く手間や、シャッターを切るためにカメラを取り出す手間は、旅の楽しみを削ぐこともある。ところが、スマートフォンの普及により、状況は一変した。ポケットにスマホを忍ばせておけば、瞬間を逃さずに撮影できるようになった。
日本フォトイメージング協会の調査によると、日本人が一年間に撮影する写真の平均枚数は3193枚、つまり1日あたり約8.7枚という結果が出ている。この数字からも、私たちが写真を撮ることが日常生活の一部になっていることがわかる。
今回の記事では、「異邦人が撮った写真の向こう側」というイベントを紹介し、その背後にあるストーリーをお伝えする。多様な文化を体験したフォトグラファー山方由香利さんと、ganasの編集長である長光大慈が、ヨルダン、ベナン、コロンビアでの経験をもとに撮影した写真とともに、彼らの物語を語る。
ヨルダンの街角から
イベントで紹介される一枚は、山方さんがヨルダンの首都アンマンで撮影したものである。写真には、髪を覆った女性が紅茶を注いでいる場面が収められているが、その背後には興味深いストーリーが潜んでいる。山方さんが言うには、「カメラを構えると、レンズの向こうには自分の心が動く瞬間が広がっている」とのこと。彼女は2019年、言語交換アプリ「Hello Talk」でヨルダン人のアイシャさんと出会い、彼女との交流が始まった。
この出会い以前、山方さんはニュージーランドでの生活を経て「日本での生活が息苦しい」と感じ、海外の友人を求めてアプリを利用した。アイシャさんは彼女にとって最初のヨルダン人の友人となり、いつしか家族の話や未来の夢を語り合う仲になった。このように、人との出会いと交流が彼女に新しい視点や文化への興味を与えてくれたのである。
借りた対面の感動
5年後の2024年、山方さんはアイシャさんに会うためにアンマンを訪れる決意をする。航空券も準備し、期待に胸を膨らませていたが、突如としてイランとイスラエルの緊張が高まり、アンマンの空港の閉鎖という事態が発生した。このニュースに時折心が凍りつき、彼女は心の中で怒りを募らせる。「なぜこのタイミングなのか」と。しかし、運命は二人を見放さなかった。空港は再開し、飛行機も運航を再開した。
アンマンに降り立つと、いよいよアイシャさんと初対面する瞬間が訪れる。初めての対面とはいえ、以前から交流していた分、緊張と期待がひしめく。「初めまして」と言いかけると、アイシャさんからは「それはなんか違和感がある」とツッコミが返される微笑ましい一幕も。また、アイシャさんのお母さんにも会ったという山方さんは、言葉の壁を超え、ボディランゲージを交えて心温まる交流を重ねたと語る。
特別な紅茶と思い出
山方さんとの時間はあっという間に過ぎ去り、最後のもてなしとしてアイシャさんの家で振る舞われたのは、甘酸っぱい紅茶だった。この一杯の紅茶は特別なものであり、飲み終えるとサヨナラを告げることになる。不安を抱えていた旅路の中でも、彼女の心に残った思い出の一つになったはずである。
このように、写真は単なる記録だけではなく、撮影のプロセスやその背後にあるストーリーを持つアートである。便利なスマホを活用することで、日常に潜む感動を捉えることができるというのは、現代ならではの楽しみ方でもある。
旅のアクティビティと誘い
7月21日、別のイベント「途上国トーク」が開催されることが決まった。多くの社会人や大学生が集まり、写真を通じて異文化を体験する話に花を咲かせる貴重な機会、参加費は無料で35人程度の定員で行われる。興味のある方にはぜひ申込みをお勧めしたい。
この夏、自分だけの写真に秘められた物語を知り、共有することで、まったく新しい世界観を得られるかもしれない。写真を切り口にしたこのイベントに参加し、共に旅する楽しみを分かち合おう。