6月29日(土)に行われた「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」一回戦第一局で、稲葉陽八段が伊藤匠叡王を144手で下し、二回戦進出を果たしました。
稲葉八段は後手番で早石田と呼ばれる三間飛車を採用。対する伊藤叡王は序盤から積極的に攻め込み、前例のない展開となりました。中盤戦では稲葉八段がじりじりとした攻めを続け、120手目には馬を切って決めにいき、最後は見事な寄せで勝利を収めました。
伊藤叡王はタイトル獲得後の初戦でしたが、稲葉八段の粘り強い指し手に屈し、惜しくも敗れてしまいました。
次戦は、稲葉八段は二回戦第一局で永瀬拓矢九段と対戦予定です。
対局前には両棋士から意気込みが語られました。伊藤叡王は「『JTプロ公式戦』は子供の頃から憧れていた棋戦なので、出場できることを大変嬉しく思います。稲葉八段は早見え早指しの実力者です。時間の短い棋戦で決断力が必要になると思いますが、内容の良い将棋をお見せできるよう頑張ります。」とコメント。
一方、稲葉八段は「『JTプロ公式戦』は公開対局で棋士として大変やりがいがありますので、一局でも多く戦いたいと思っています。伊藤叡王は序盤の研究が深いので、そこで立ち遅れないようにしたい。また終盤の粘りもすごい。そんな強い相手とこの『JTプロ公式戦』で戦えるのは棋士冥利に尽きます。自分の力を発揮できるよう頑張りたいですね。」と語りました。
勝利後の稲葉八段は「後手番で早石田は珍しいかもしれませんね。自玉が7一なのでひやひやしていました。やはり後手なので一手違うので。封じ手の局面は難しいと思っていましたが、△7六飛~△6六飛で先手玉のこびんが空いて少し指しやすいのかと。得した桂香を使っていけばいいので。とはいえ伊藤叡王には終盤粘られて逆転負けを食っているので、慎重に行きました。結果的に勝ってホッとしています。次またもう一局指せるので、それが一番うれしいですね。」と笑顔を見せました。
戸辺誠七段は「前日に予想した稲葉八段の振り飛車が実現してホッとしました(笑)。伊藤叡王が仕掛けた局面で早めに封じ手にしたのは、先輩棋士のアドバイスがあったからで、いいところで出せたのかなと。感想戦で伊藤叡王が『31手目は▲7七角でしたか』と言っていましたが、それなら難しい将棋でした。38手目△6六飛と先手の角と切り違えて振り飛車ペースになったと思います。勝つまでは大変ですが後手は指し手がわかりやすい。伊藤叡王をもってしても巻き返すのが至難の業でしたが、必死にしがみついて大熱戦にしたのはさすがでした。稲葉八段は118手目△8四香~△7八馬以下そのまま寄せ切りました。見事な勝利だったと思います。」と講評しました。
今後の展開にも注目が集まります。