南フランスの港町から始まる、老夫婦の知的な旅
「そろそろ海外旅行もおしまいかな」― そんな思いを抱きながらも、長年海外旅行を愛してきた老夫婦が最後に選んだのは、南フランスの地中海岸地方、コート・ダジュール。国際的な保養地として知られるこの地は、高級感漂うイメージが先行しがちですが、実際にはレトロな街並みやノスタルジックな風情、そして素朴な農漁村的な雰囲気も併せ持っています。
さらに、ルノワール、マティス、ピカソなど、数々の著名な画家たちに愛された場所としても知られています。風光明媚な景色だけでなく、芸術に触れる場所も数多く存在するコート・ダジュールは、老夫婦にとって、のんびりと過ごすのに最適な場所だったのです。
アンティーブの古民家で始まる、1ヶ月の滞在
インターネットで宿泊施設を探していた夫婦は、アンティーブという港町にある古民家を見つけました。別荘風で自炊もできるというこの部屋は、落ち着いた雰囲気で、すぐに気に入ってしまいました。
しかし、滞在初日から思わぬハプニングが。部屋代を現金で支払おうとしたところ、管理人が領収書を用意していなかったのです。言葉も通じず、不安な気持ちを抱えながらも、夫婦は現金を受け渡し、部屋の鍵を受け取りました。
静寂と活気、そして芸術が息づくアンティーブ
部屋の周辺は、グリマルディという古城の近くに広がる歴史地区でした。歩いて1分もかからないところに、紺碧の海を見渡せる高台があり、夫婦は毎日、静寂な夜明けの海を眺め、水平線から昇る太陽を待つことを日課にしました。
昼間は、石畳の小路を歩けば数分で商店街に行けるという、便利な立地です。市場では、野菜農家、魚屋、肉屋など、地元の人々と触れ合いながら、新鮮な食材を手に入れました。市場の裏手にあった小さなカフェも、老夫婦にとって憩いの場となりました。
アンティーブの街には、ヨーロッパ有数の規模を誇るマリーナや、世界で初めてのピカソ美術館など、魅力的な場所がたくさんあります。かつて、クロード・モネもこの街に滞在し、街の風景を描いた作品を残しています。
コート・ダジュールの芸術家ゆかりの地を訪ねる日帰り旅
アンティーブを拠点に、夫婦は電車やバスを利用して、コート・ダジュールの各地へ日帰り旅行に出かけました。
マントン: イタリアとの国境にあるバロック建築の街。ジャン・コクトー美術館があります。
ヴィル・フランシュ: コクトーが愛した街。チャーミングな礼拝堂があります。
カンヌ: 国際映画祭の街。ゴージャスな街並みと素朴な漁師町風情が共存する、おしゃれな街です。
ヴァンス: 聖堂の中にマルク・シャガールのモザイク画があります。
カーニュ・シュル・メール: ルノワールの旧宅があります。
オード・カーニュ: 《コート・ダジュールのモンマルトル》と呼ばれる芸術の里。
エズ: 《鷲の巣村》と呼ばれる奇観と絶景を誇る村。
ビオ: ガラス工房の村として知られ、フェルナン・レジェの美術館があります。
グラース: フランスを代表する香水の街。
ヴァンス: アンリ・マティスの宗教画を収めた《ロザリオ礼拝堂》があります。
*
ニース: マティス美術館とシャガール美術館があります。
旅を通じて得た、かけがえのない思い出
老夫婦は、コート・ダジュールを巡る旅を通じて、芸術家たちの足跡をたどり、美しい風景と文化に触れ、知的好奇心を刺激されました。
旅の思い出は、老後の貴重な財産です。いつでも、どこでも、記憶の引き出しから取り出し、懐かしむことができます。老後にとって、これほど心安らぐものはないでしょう。
旅は、人生を豊かにする
本書を通じて、著者が読者に伝えたいのは、旅は人生を豊かにするということです。旅に出かけるのが難しい人でも、興味のある土地の紀行書やエッセイを読むことで、旅の教養を深め、豊かな心を育むことができるのです。
老夫婦の知的な旅を通して、あなたもコート・ダジュールの魅力に触れてみませんか?