新型酵素がムコ多糖症ニホンザルの症状改善を実現
研究の背景と必要性
ライソゾーム病は、体内での物質分解を担う酵素の遺伝的欠損によって引き起こされる疾患の一群です。この中でも、ムコ多糖症は特に注目されており、その中にムコ多糖症Ⅰ型(MPS I)があります。MPS Iは、遺伝子の変異により、グリコサミノグリカンの一種が体内に蓄積し、全身にさまざまな症状をもたらします。典型的な治療法として、組換えヒト酵素を静脈内に投与する酵素補充療法がありますが、そのコスト面や安全性向上のため、より良い生産方法が必要とされていました。
研究手法と成果
京都大学ヒト行動進化研究センターを中心とする研究チームは、遺伝子組換えカイコを利用して、ヒトライソゾーム酵素であるα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を大量生産しました。このカイコから得られた酵素は、改変が施され、ムコ多糖症Ⅰ型のニホンザルに投与されることによって臨床徴候の改善が確認されました。エンドグリコシダーゼを用いて、酵素のN型糖鎖を改変し、機能性を高めている点が大きな特徴です。この成果は、ライソゾーム病に対する新しい治療法の開発に寄与することが期待されています。
新型酵素の特長
本研究では、特にN型糖鎖をシアル酸型に改変した酵素も調製され、これが細胞内の取り込みと治療効果を向上させることに成功しました。研究チームは、ニホンザルの中からMPS Iの徴候を示す個体を発見し、得られた酵素の投与により尿中GAGを減少させることができました。このような研究から得られた知見は、今後のライソゾーム病の治療において重要な役割を果たすことが期待されます。
今後の展望
この研究の成果を踏まえ、研究チームは今後も遺伝子組換えカイコを利用し、新たな糖鎖改変を進めることで、更なる低コストなヒト型糖タンパク質の製造を目指しています。また、MPS Iニホンザルはヒトと共通する疾患モデルであるため、遺伝子治療法への応用も考えられています。このようにして、今後ますます多くの治療法の開発が期待されるでしょう。
共同研究の重要性
この研究は、京都大学や徳島大学、川崎医科大学など、さまざまな機関の研究者たちが集まり、共同で行われました。これによって、多気的なアプローチが可能となり、さまざまな知見と技術が融合されて新しい成果が生まれています。このような共同研究の進展は、今後の医学研究や治療法の発展において、重要な役割を果たすことでしょう。
研究成果は、2025年4月18日に国際学術誌「Communications Medicine」に掲載されました。本研究が新たな治療法の開発に向けて大きな一歩を踏み出すことが期待されています。