彫刻家・舟越桂の言葉と、森の息吹を感じる貴重な一冊『舟越桂−森の声を聴く』
2024年3月、72歳で逝去した彫刻家・舟越桂。その独特な作風と、静けさの中に生命を感じさせる作品は、多くの人を魅了してきました。本書は、美術書専門出版社の株式会社求龍堂から2024年6月28日に刊行された『舟越桂−森の声を聴く』です。
本書は、舟越桂の作品を40年近く見続けてきた元世田谷美術館館長・美術評論家の酒井忠康氏が、舟越桂との出会いから、作品への想いを綴った一冊。1985年に初めて舟越桂の彫刻と出会った酒井氏は、その作品に漂う文学的な魅力に惹かれ、作家と深い交流を深めてきました。
本書は、酒井氏の視点から、舟越桂の創作の過程や作品に込められた思い、そして作家の人間性について深く掘り下げています。特に、1988年のヴェネチア・ビエンナーレでの舟越桂の作品紹介、そして、1991年のアトリエ訪問の様子は、作品誕生の裏側を垣間見れる貴重なエピソードとして、読み手の心を惹きつけます。
さらに、本書では、舟越桂と酒井忠康による貴重な対談が収録されています。対談の中で、舟越桂は自身の創作への思いを率直に語り、人生の中で出会った様々な人々や出来事が、いかに自身の作品に影響を与えてきたのかを明かしています。
舟越桂の彫刻は、静けさの中に生命を感じさせる独特な存在感を持っています。それは、まるで森の静寂の中に佇む木々のように、自然と人間の深いつながりを表現しているかのよう。本書を通して、舟越桂の作品が持つ深みや、そこに込められた思いをより深く理解できるでしょう。
舟越桂のまなざしは、どこを見つめているのか
本書の後半では、酒井忠康氏が、舟越桂のスフィンクス・シリーズ作品群について論考を深めています。このシリーズでは、これまでの舟越桂の静謐な作風とは異なる、鋭い視線と力強さが表現されています。
酒井氏は、このシリーズを通して、舟越桂のまなざしが、社会や人間の矛盾、そして戦争という人類の愚かさに向けられていると分析しています。しかし同時に、そのまなざしの中には、子どもたちや大切な人たちに対する温かい愛情も感じられると指摘しています。
舟越桂の彫刻は、一見、静かで穏やかな印象を与えますが、その奥には深い思索と、複雑な感情が渦巻いています。本書は、舟越桂という人間の複雑な内面と、その奥底に潜む強い意志を、彼の作品を通して明らかにします。
『舟越桂−森の声を聴く』は、彫刻家・舟越桂の魂に触れる貴重な一冊
本書は、単なる美術評論ではなく、舟越桂の人生と作品を深く理解するための、貴重なガイドブックともいえます。舟越桂の作品に触れたことのある方も、そうでない方も、この一冊を通して、彼の作品に込められたメッセージを感じ、彫刻の世界への理解を深めてみてください。