ニホンウナギの未来と新たな可能性
最近、東京都立産業技術研究センターと北里大学の研究チームが、絶滅危惧種であるニホンウナギの筋肉からウナギの風味を引き出す脂肪細胞株を初めて樹立しました。この研究成果は、世界中で注目を集めており、持続可能な食料供給に向けた新たなソリューションを提供する可能性があります。
研究の背景
ニホンウナギは、日本の食文化における伝統的な食材であり、特に高級料理として知られています。しかし、資源の枯渇や捕獲方法の問題から、絶滅危惧種に指定されています。現在流通しているウナギは、天然の稚魚を捕まえて養殖する手法に依存しているため、資源の保護と代替供給源の確保が急務です。
成果の概要
この研究では、ニホンウナギの筋肉組織から3つの新しい細胞株(JE-KRT224、JE-EK9、JE-F1140)が成功裏に樹立されました。これらの細胞株は、ウイルスや薬剤を使用することなく自然に不死化したもので、連続的に培養することが可能です。
細胞から生成される脂肪は、市販の養殖ウナギと非常に類似していることが確認され、ウナギ特有の食感や風味を再現する食材としての期待が高まっています。
研究の意義
この成果は、絶滅危惧のニホンウナギの資源保護だけでなく、細胞性食品の開発にも貢献するものです。細胞性食品とは、動物や魚から採取した細胞を培養して作る食肉・魚肉の新しい生産技術であり、環境に対する負荷の軽減や動物福祉に寄与しています。
特に、魚類において脂肪細胞株の整備は極めて困難であり、ニホンウナギの研究は新たな道を切り開くものと言えるでしょう。
今後の展開
研究チームは、次のステップとしてこれらの細胞に筋芽細胞を組み合わせ、より本物のウナギ肉を模した細胞性食品の開発を目指しています。今後の取り組みにより、培養環境が整備されれば、天然のものでは難しい脂の最適化や製品の均一化が実現するかもしれません。
さらに、本研究の成果を活かし、他の高級魚や絶滅危惧種の細胞性魚肉開発への応用も期待されています。これにより、持続可能な食料供給の実現がますます現実のものとなるでしょう。
結論
この新しい研究は、ニホンウナギだけでなく、食料供給全体に対する関心を呼び起こすものです。ニホンウナギの脂肪を使用した細胞性食品が実現すれば、私たちの食卓に新しい未来をもたらすでしょう。今後の動向に注目が集まります。
論文情報
- - 掲載誌: npj Science of Food
- - 論文名: Establishment of spontaneously immortalized Japanese eel muscle-derived preadipocyte cell lines for cultured seafood production
- - 著者: Eriko Kishino, Shizue Saegusa, Daisuke Ikeda
- - DOI: 10.1038/s41538-025-00557-x