万城目学の新作 『あの子とQ』 が描く新たな青春物語
直木賞作家、万城目学が手がける新しい青春ヴァンパイア小説『あの子とQ』が、2025年3月28日に新潮文庫より発売される。多くの吸血鬼文学が描かれ愛されてきた中、本作は現代日本を舞台にした独自の視点が際立つ。
2024年1月、万城目氏は『八月の御所グラウンド』で第170回直木賞を受賞。受賞作は青春小説にちょっとした不思議さを加えた作品であり、同様の要素が『あの子とQ』にも息づいている。主人公の弓子は、吸血鬼一家の娘でありながら、普通の高校生活を送っている。
高校2年生、17歳の誕生日を迎えようとする弓子は、ある朝、天井近くに現れた不気味な「ばけもの」に出会う。その正体は、「Q」と名付けられた生き物で、弓子が誕生日を迎えるまでの10日間、人間の血を吸わないで過ごせるかを見守るために派遣されてきたのだ。これに動揺した弓子は、「どうして私が血を吸う必要があるの?」と不満を露わにする。
本作の魅力は、吸血鬼でありながら血を吸わないという新しい設定にある。この設定が描く不思議な青春の一幕を楽しむことができる。果たして、弓子はQと共にこの難題を乗り越え、17歳を無事に迎えることができるのか?
物語は冒険と友情、そして青春の特別な瞬間を描き出し、読者を引き込む。作中に織り込まれる軽快なユーモアや切なさは、万城目氏の特徴であり、読む者を惹きつける魅力の源となっている。新しい試みとしてのヴァンパイア要素も、これまでの彼の作品とは違った新鮮な風をもたらす。
また、序盤から中盤にかけて描かれる弓子の葛藤や彼女が体験する日常、思春期特有のもどかしさも物語を一層深めている。さらに、シリーズ第二作『あの子とO(オー)』が5月に発売予定とのことなので、こちらも楽しみにしたい。
万城目氏は1976年に大阪で生まれ、京都大学法学部を卒業後、化学繊維会社に勤務していたが、2006年に『鴨川ホルモー』で文壇にデビュー。以来、独自の視点と軽やかな筆致で読者を魅了し続け、2024年には『八月の御所グラウンド』で直木賞を受賞した。
これまでの作品には『鹿男あをによし』や『プリンセス・トヨトミ』といった著名な小説があり、万城目氏の魅力は多岐にわたります。『あの子とQ』は、彼の新たな挑戦であり、青春小説と吸血鬼物語の融合によって、また新しいジャンルを切り拓く作品として期待されている。
読者は是非、この作品を手に取ってみてほしい。青春の一瞬の美しさとともに、吸血鬼という異色の存在を通じて描かれる不思議な世界が広がっている。