63歳で人生の新たな道を選んだ元事件記者の挑戦
元朝日新聞の事件記者、緒方健二(おがたけんじ)さんが63歳で短大の保育学科に入学し、保育士を目指すという挑戦を始めました。この異色のキャリア転換は、多くの人々にインスピレーションを与えています。
緒方さんは39年にわたり警視庁キャップとして、凶悪事件や暴力団抗争を取材し続けてきました。その中で心に残ったのは、ある警察官の言葉です。「捜査で被害者の無念を晴らすことはできるけれど、生育環境には手が届かない」。この思いが彼を保育士の道へと駆り立てます。子どもたちの命や未来を支えるために、自己犠牲的な精神が芽生えたのです。
短大入学を決意した緒方さん。しかし、待っていたのは容易ではない挑戦の連続でした。大半の同級生は10代の女性だという環境に、角刈りのコワモテな63歳が身を置くことに。ピアノの演奏は不慣れで、読み聞かせに挑んでは講談調になってしまうなど、彼の奮闘は続きます。自分とは異なる世代の仲間たちとともに新たな知識や技術を身につけ、彼は徐々に心の壁を取り払っていきました。
本書『事件記者、保育士になる』では、記者の目線で子どもを取り巻く現状を分析し、同時に新しい環境に飛び込んだ彼の苦闘と成長が描かれます。事件記者としての豊富な経験を活かして、多様な世代の仲間たちと目標に向かって進む姿は、セカンドキャリアの成功を示しています。
緒方さんはまた、2021年に朝日新聞社を退社し、次のステップとして保育士資格や幼稚園教諭免許、こども音楽療育士資格を取得しました。さらに、朝日カルチャーセンターで事件や犯罪に関する講義を行い、取材や執筆活動も続けています。彼の経験が保育の現場でどのように活かされるのか、耳を傾ける人々の期待は高まるばかりです。
このルポを書いた緒方さんは、自身の体験を通じて「子どもの最善の利益」を実現するために何ができるかを模索し続けています。彼の挑戦は、子どもたちを守るために何が大切か、再考するきっかけとなります。63歳になっても新たな道に挑戦する姿は、人生の幕が閉じることのない証明です。
この本は、保育士を目指すすべての人、子どもたちの未来を考えるすべての人にとって、心温まるメッセージが詰まった一冊と言わざるを得ません。彼の奮闘と成長の物語は、多くの読者に感動を与え、自己成長の重要性を再認識させることでしょう。