分子の自己集合プロセスにおける新たな発見
千葉大学国際高等研究基幹の矢貝教授を中心に、東北大学や量子科学技術研究開発機構、東京科学大学、京都大学と共同で行われた最新の研究により、光応答性分子の自己集合に関する新たなメカニズムが明らかになりました。この研究では、光の強度が自己集合体の巻き方向を逆転させる現象が発見されました。
研究の背景
近年、特に光に応じて分子の集合状態が変化する有機材料の研究がにわかに活況を呈しています。集合状態の変化は、多くの物質において物理的特性に大きな影響を与え、溶解性や導電性、さらには磁性にも関係してきます。しかしこれまで、自己集合の過程で残る微少な不純物や溶け残った材料の影響を重視している研究は少なく、その影響についての理解が進んでいなかったのです。
研究成果の概要
今回の研究では、特に注目されるのが、安定した左巻き螺旋構造を持つ光応答性分子を用いた自己集合において、溶液中にわずかに残存する集合体が、巻き方向を逆転させることに寄与することが明らかになった点です。研究チームは、紫外線や可視光を使い、分子の集合を精密に制御する手法を確立しました。
具体的には、ハサミ型の分子を用いたモデル実験によって、室温下で自己集合するときに特定の巻き方向を持つ構造が形成され、その後、光を照射することでその巻き方向を自在に変えることができました。このメカニズムの理解が進むことで、光応答性材料の新たな製造プロセスに道を開くことが期待されています。
実験の詳細
研究チームが行った実験では、特定の条件下で折りたたまれたハサミ型分子が、紫外線を照射することで分散した状態になることが確認されました。このプロセスの中で、弱い紫外線を使用した場合には一部の左巻き螺旋が残存し、その後に可視光を照射することで、右巻きの螺旋が優先的に形成される現象が観測されました。また強い紫外線を使用した場合には、分子集合体はすべて解体され、可視光を照射することで再び元の左巻きの螺旋構造が復元されることが見出されました。
新たな材料創成への応用
この研究から得た知見は、今後、光に応答してキラリティを変化させる新しい材料の開発に大きく寄与するでしょう。研究チームは、光の強度が分子の集合状態に及ぼす影響を詳細に解析し、さらなる材料創生の可能性を探ります。特に、ある材料が持つ電子的特性が螺旋の巻き方向によって変わることが分かり、電子スピンの制御という新しい方向性も示されました。
今後の取り組み
本研究は、単に視覚的な変化に留まらず、より機能的な有機材料の開発に寄与するものと期待されています。今後、分子の構造を精密に制御しながら、これまで実現困難だった新たな光学的特性を持つ材料の創出が進むことが予想されています。さらに「残存集合体」の精密な制御手法が確立されることで、次世代の材料開発に新たな道を開くことにつながるでしょう。この研究成果は、2025年4月11日にNature Nanotechnologyで発表される予定です。