蘭医繚乱 洪庵と泰然
海堂尊の新作『蘭医繚乱 洪庵と泰然』が、2024年10月10日に発売された。価格は税込2,530円。著者は、医療小説の巨匠として知られる海堂尊氏であり、ドラマ「ブラックペアン」の原作者でもある。今回の作品は、江戸時代後期から幕末にかけての蘭方医たちのドラマを描いたもので、特に緒方洪庵と佐藤泰然という二人の人物に焦点を当てている。
この物語は、江戸時代後期の不安定な社会情勢の中で、医学の発展と天然痘という恐ろしい疫病との闘いを描き出している。緒方洪庵と佐藤泰然は、当時の著名な蘭方医であり、後の時代に多くの優秀な医師を育て上げた。ただ、彼らの背景には、それぞれの愛と友情、そして対立があった。
幕末の動乱と西洋医学の普及
本作では、洪庵と泰然がそれぞれの道を歩む十代後半から始まり、長崎留学、大坂と江戸での私塾創設に至る過程が丁寧に描かれている。彼らはライバルでありながらも、互いを認め合い、時には助け合いながら蘭医学の普及に尽力する姿が描かれる。特に、疫病に苦しむ人々を救うために、あらゆる困難を乗り越えていく彼らの姿は、現代の医師たちに通じるものがある。
物語の舞台となる幕末の日本は、さまざまな事件が勃発し、外国文化への抵抗感が強まっていた。「西の適塾、東の順天堂」と称される私塾を設立し、西洋の医学に努めた彼らの奮闘は、当時の若者たちに大きな影響を与えた。
「天命」として重なる人生
主役の一人、佐藤泰然は、旗本・伊奈家に生まれ育ち基盤がありながらも、豪放磊落な性格で描かれている。洪庵とは対照的に、泰然の自由奔放な性格がジョンソンの時代を生き抜く力となっている。海堂尊は、彼らの人生が「天命」として重なる運命を感じていると言う。
この作品には、海堂氏が丹念に取材を行ったことが明記されており、洪庵の妻の実家、適塾、シーボルト記念館など、各地の歴史的な場所が盛り込まれている。ひとつの作品に複数の視点が融合し、一つの大きな群像劇としての魅力を生み出している。
あらすじと著者の背景
物語は、医者に憧れる青年が江戸時代後期の大坂での出来事から始まる。青年は中天游という師と出会い、蘭学に興味を持つ。その一方で、江戸では祝言を挙げた少年が医者へと進む決心をする。彼らは同じ時期に長崎で学び、互いの進展を競い合いながら成長していく。
海堂尊氏は、1961年に千葉県で生まれ、医学博士としても名を馳せている。本作を通じて、彼の医師としての視点がリアルに描かれており、時代を越えた人々の「思い」と「覚悟」が巧みに表現されている。
まとめ
『蘭医繚乱 洪庵と泰然』は、単なる歴史小説ではなく、深い人間ドラマを描いた作品である。実在した人物をもとにしながらも、著者は彼らの生涯とその思いを独自に描き出している。幕末の医療の歴史と、そこに生きた人々の情熱を感じる一冊だ。この大作を通じて、我々もまた「守るべきもの」を考えさせられるのではないだろうか。