慢性炎症への新たな糸口、HLFの発見
千葉大学大学院医学研究院の木内政宏助教と平原潔教授の研究チームは、慢性炎症を引き起こすメカニズムに新たな光を当てる発見をしました。彼らの研究によれば、「Hepatic Leukemia Factor(HLF)」という転写因子が、慢性炎症を促進する特定の免疫細胞、すなわち「組織常在性記憶CD4+T細胞(CD4+TRM細胞)」の定着に関与していることが分かりました。
この発見は、ぜんそくや関節リウマチなどの慢性炎症性疾患の治療における新たな可能性を示唆しています。HLFがどのようにCD4+TRM細胞を制御し、その細胞がどのように慢性炎症の発症に寄与するかを分子レベルで明らかにすることで、治療法の確立に向けた一歩が踏み出されたと言えます。
研究の背景
私たちの免疫系には、感染や侵入した病原体を記憶している「記憶T細胞」が存在します。これらの細胞は、再感染時に迅速かつ効果的に反応しますが、長期にわたり体内に留まることがアレルギーや自己免疫疾患の慢性化を引き起こす原因となることがあります。
特にCD4+TRM細胞は、呼吸器や腸に長く定住し、再感染時には速やかに反応を示しますが、慢性疾患を悪化させるリスクを抱えています。これまでの研究では、その分化や機能に関する理解が不足していました。
研究の重要性
研究チームは、CD4+TRM細胞の中でも特に炎症性の高い細胞に特異的にHLFが発現していることを発見しました。HLFが欠損したマウス実験では、CD4+TRM細胞の数が著しく減少し、その結果として炎症と線維化が抑制されることが確認されています。これにより、HLFはこれらの細胞の活動と定着において重要な役割を果たす可能性が示されています。
また、ヒトの慢性炎症性疾患においても、病変の組織内にHLF陽性のCD4+TRM細胞の浸潤が確認されており、これが病気の悪化にどのように寄与するのかを解明する手がかりとなります。
今後の方向性
本研究によって豁然とした新しい理解は、慢性炎症を悪化させる要因の解明に寄与し、これを標的とした治療法の開発へとつながる期待があります。今後は、HLFがどのような炎症シグナルによって誘導されるのかをさらに突き詰め、臨床応用に向けた研究が続けられる予定です。この研究成果は、2025年に国際科学誌「Science」にて発表される相談があるため、関心を惹く分野であることは間違いありません。
用語解説
- - 組織常在性記憶CD4+T細胞(CD4+ TRM細胞): 長期間にわたって特定の組織に留まり、再感染に対する迅速な免疫反応を担うが、慢性炎症の一因となる。
- - Hepatic Leukemia Factor(HLF): 特定の遺伝子の発現を調節する重要な転写因子で、CD4+TRM細胞の進化や役割に深く関与する。
このように、HLFの発見は、慢性炎症性疾患の理解を深め、新たな治療戦略の開発に向けた道を切り開くものであるといえるでしょう。