はじめに
近年、日本における有権者の投票行動が注目されています。特に、政党選択において何が重視されるのか、政策の一致度だけでなく、実務能力がどのように影響を与えているのかが焦点となっています。この研究では、そんな点に迫り、日本の有権者が特定のヴェイレンス属性をどのように評価するかを詳細に分析しました。
政党の実務能力とヴェイレンス属性
これまでの政治学においては、主に政策的な立場、すなわち争点態度が投票行動に重要であるとされてきました。しかし、実務能力や信頼性といったヴェイレンス属性が影響を与えることも知られています。このような属性は、有権者にとって「高い方が望ましい」とされるため、無視できない要素となっています。
本研究では、オンライン調査を通じて、政策属性とヴェイレンス属性を組み合わせた架空の政党プロファイルを用意し、有権者がどのような属性を重視するのかを実験的に調査しました。具体的には、閣僚や国会議員数、公約実現度など、実務能力に関する11のヴェイレンス属性が設定されました。
主な調査結果
本研究において得られた結果は以下の通りです。
政策と実務能力の重要性
有権者は、政策が自身の嗜好に近い場合や、政党の実務能力が高い場合にその政党を好む傾向が強く見られました。また、選挙制度による影響もほとんど見られませんでした。
重視されるヴェイレンス属性
研究の中で特に重視されていた属性には、政党の国会における存在感、すなわち国会議員数や委員長数、公約の実現度、立法生産性、スキャンダルの少なさといった点が挙げられました。
一方、政党の結党からの年数や経験といった属性は、それほど評価されない傾向がありました。これは、経験者の割合が高いことが有権者の好みに直結するわけではないことを示唆しています。
ヴェイレンスと政策の独立性
さらに興味深い点は、ヴェイレンス属性と政策の影響は独立しているという結果です。高いヴェイレンスを持つ政党であっても、政策が好みから外れている場合は支持が低下する傾向が見られました。
社会に及ぼす影響
本研究の結果は、日本の政党間競争や有権者の投票行動を理解する上で重要な示唆を提供します。特に、有権者が政党の実務能力に基づいて投票行動を決定する傾向があることが明らかとなりました。この結果は、日本の自民党が長年にわたり政権を維持してきた理由を理解する上でも役立ちます。
野党にとっては、政策的対立だけでなく、実務能力に関連するヴェイレンス属性をどのように向上させてアピールしていくかが重要な課題であると言えます。これを克服することで、無党派層や幅広い有権者からの支持を得やすくなるでしょう。
今後の展望
本研究ではコンジョイント実験という手法を用いて、有権者の投票選択におけるヴェイレンスの影響を探りましたが、今後はより現実的な政治情勢を考慮した研究が望まれます。また、他国と比較した際にどのようなヴェイレンス属性が重視されるのか、さらなる研究が期待されます。最後に、政党自身の経験と候補者のヴェイレンスがどのように相互に影響を与えているかについての研究も進めていきたいと考えています。