菱田工務店の「ベルギー民家」
長野県坂城町に拠点を構える菱田工務店は、自然素材を活かした住まい作りを行っています。代表作である「ベルギー民家」は、日本の風土に合った形で再構築された住宅で、菱田昌平氏の自邸でもあります。その設計には、ベルギーの伝統を表現したティンバーフレーム構法が採用されており、木材の美しさと職人の技術が見事に融合しています。
ティンバーフレーム構法の魅力
「ベルギー民家」の特徴は、太い無垢材を使用したティンバーフレーム構法です。この工法は、木と木を組み合わせる継手や仕口によって強度を確保し、金物に頼らないため、構造がそのまま空間の美しさを演出しています。大断面の梁が連なるリビングは開放的で、木製の骨組みが自然の息吹を感じさせてくれるでしょう。
職人の手仕事による仕上げ
さらに、この家は職人の手仕事による仕上げが随所に施されています。例えば、はつり仕上げでは鉞を使用して木目の力強さを引き出し、茅葺き屋根は女性職人が心を込めて仕上げました。1階はモルタル床に墨を混ぜた土間敷き、キッチンやバスルームは水に強いモールテックスで仕上げるなど、素材の質感を最大限に生かした仕立てになっています。特に、栗材の独特なカーブは、ヨーロッパ流の温かみを漂わせています。
これらの素材は相互に響きあい、空間全体の温度を感じさせる仕上がりとなっています。「ベルギー民家」は、単なる自邸ではなく、菱田工務店の建築思想を体現した原点とも言える作品です。
開かれた暮らしの原点
菱田氏がこの家の設計に着手したきっかけは、ベルギーで過ごした2週間の滞在です。友人の古民家での静かな時間を通じて、自然と家族の会話が生まれる環境への思索が生まれ、「本当に住みたい家」の原型を見出しました。この経験を基に、南北に開かれた空間設計を実現しました。
「閉じる家」ではなく「開く家」が、菱田工務店の思想の核心です。自然素材が呼吸し、人と風景が緩やかに繋がる住まいが、彼の目指す理想です。
経年美の実現
「ベルギー民家」は、完成後10年が経過し、時間と共にその美しさは進化しています。木の経年変化によって、梁や柱の木肌はより艶やかに、漆喰の壁には柔らかな陰影が生まれ、家全体が呼吸するように馴染んでいます。この経年美は、初めから意図されたもので、設計当初から「時間が美しさを仕上げていく」と考えていたからです。
訪れる人々は、木、土、石が響き合うこの家の存在感に驚かされるでしょう。
次世代へ受け継がれる思想
「ベルギー民家」で生まれた設計思想は、現在、軽井沢に新たな別荘建築として受け継がれています。ティンバーフレーム構法と自然素材の更なる発展が目指され、四季の変化を感じさせる建築として進化し続けています。この新しい別荘も見学が可能で、その魅力をぜひ体感してみてください。
菱田工務店のウェブサイトやSNSを通じて、建築思想やプロジェクトの情報を随時発信しています。興味がある方はぜひ訪れてみてください。
代表者について
菱田昌平氏は18歳で大工の道に入り、これまで29年間にわたり住宅づくりに情熱を注いできました。日本とヨーロッパでの経験をもとに、独立後は「古る、美る。」という思想を掲げ、時を経ることで価値が深まる住まいを提供し続けています。彼の作品は国内外から注目を集め、インスタグラムのフォロワー数は50万人を超えています。
結び
菱田工務店は、ただの住宅建設業者ではありません。彼らの家は、美しさを追求しながら、職人の手仕事と対話する住まいを提供しています。いつの時代も魅力を失わない、そんな家を作り続ける彼らの姿勢を、ぜひ多くの人に知ってほしいと思います。