鉄磁石とマンガン磁石を利用した次世代電子デバイスの革新
千葉大学大学院工学研究院の研究チームは、鉄磁石とマンガン磁石の界面に新しい1次元電子ストライプ構造を創出することに成功しました。本研究は、スピントロニクスをはじめとする先端電子デバイスの可能性を広げるものです。
1次元電子ストライプ構造の重要性
超高速かつ省エネルギーな次世代電子デバイスの開発には、特定方向に電子の流れを制御できる材料が不可欠です。これを実現するために、1次元電子ストライプ構造は大変重要です。現在使用されているグラフェンなどの2次元薄膜では、1次元電子ストライプが形成されることは稀で、通常は2次元の電子構造が形成されます。さらに、遷移金属ダイカルコゲナイドのように、特殊な条件下でのみ形成されることが多いのです。
しかしながら、スピントロニクス材料として広く使われる鉄(Fe)とマンガン(Mn)を利用することで、より実用的な方法で1次元電子ストライプ構造を生成する道が開かれました。
研究の経緯と方法
研究チームは、強磁性磁石(Fe)と反強磁性磁石(Mn)の界面で生じる「磁気フラストレーション」を活用しました。これにより、特定の結晶構造の方向において1次元電子ストライプ構造の形成が可能となります。具体的には、体心立方構造(BCC)の最密方向(BCC(110))で結晶を成長させました。
すべての実験は超高真空環境で行い、鉄基板の表面を清浄化した後、マンガンを蒸着しました。これによって、観察には走査トンネル顕微鏡(STM)が使用され、原子レベルの観察が可能となりました。
STMによる観察結果
観察の結果、明瞭な縞状のストライプ構造が確認され、原子レベルで平坦なMn薄膜の表面全体に1次元の電子ストライプ構造が形成されていることが示されました。この新たなストライプ構造は、今後さまざまな電子デバイスに応用される可能性があります。
この研究成果は、2025年9月4日に学際的科学ジャーナル『Small』にオンラインで発表され、専門家たちからも注目を集めています。
今後の展望
この発見により、従来は難しいとされていた磁性金属を利用した1次元電子ストライプ構造の創出が可能であることが証明されました。これにより、次世代のスピントロニクスや量子デバイスの開発が進展することが期待されます。特に、電力効率が高く、速度も早い新しいタイプのコンピュータやセンサーの実現に寄与すると考えられています。
研究に用いた技術
研究には、走査トンネル顕微鏡(STM)や蒸着技術が使用されました。STMは、極微細な探針で物質表面をなぞることによって、原子レベルの詳細を捉えることができる強力な観察ツールです。
まとめ
この研究の意義は、身近な材料を用いても新たな電子構造を生み出すことができる点にあります。今後の研究がどのように展開していくのか、今から楽しみです。