次世代ナトリウムイオン電池の材料革新
東京理科大学の研究グループがナトリウムイオン電池において、革新的な成果を達成しました。正極材料であるβ-NaMnO2を用いた研究では、マンガン(Mn)を銅(Cu)に置き換えることで、結晶内の積層欠陥を抑制し、電池の性能向上に成功しました。この研究は、ナトリウムイオン電池の次世代蓄電池技術において、希少金属を使用せずに高性能化を実現するための重要な一歩となります。
研究の背景
ナトリウムイオン電池は、資源が豊富で低コストなため、リチウムイオン電池の有力な代替手段として注目されています。特に、正極材料として利用されるNaMnO2には、α相とβ相の2つの結晶多形が存在し、特にβ相には高い理論容量が期待されています。しかし、β相は充放電時に容量が低下するという課題がありました。そこで、本研究では、以前の研究から得られた知見を基に、Cuをドーパントとしてβ相中の積層欠陥を抑制することに挑みました。
研究成果の概要
研究チームは、NaMn1-xCuxO2という新素材を合成し、その電気化学特性を評価しました。Cuの置換により、β相で形成される積層欠陥を著しく抑制し、特に欠陥フリー材料は150サイクルを経ても容量が低下しない優れたサイクル安定性を示しました。また、Na脱離時に波状MnO2層が滑る現象も明らかにされ、この滑り現象は積層欠陥の影響を受けることが示されています。
電気化学性能
全てのサンプルがβ相を形成しており、特にCuを含むNaMn1-xCuxO2(NMCO-12)は、150サイクルにおいても高い容量維持率を示しました。この結果は、積層欠陥の抑制がβ相の本質的な安定性を提供することを示しています。また、X線吸収端近傍構造(XANES)分析により、Cuは主に2価を維持し、Mnの酸化還元反応のみが電気化学的役割を担うことが分かりました。
構造解析と動的変化
充放電過程におけるNaの脱離・挿入による構造変化の解析から、3つの異なる相の存在が確認されました。興味深いことに、Naイオンが半分以上脱離すると、波状MnO2層の滑り現象が現れ、この動的構造変化がβ相の性質を左右することが示されました。この滑りは、積層欠陥の有無にも影響を受け、構造安定性と性能向上に寄与します。
実用化に向けた期待
研究を主導した駒場教授は、ナトリウムイオン電池材料としてMnが非常に有望であり、今後の実用化に向けてこの材料の利用が進むことを期待しています。この研究成果は、電気自動車やスマートフォンに用いられる蓄電池の長寿命化と低コスト化に寄与することが見込まれます。
まとめ
本研究により、ナトリウムイオン電池の性能向上に向けた新たな道筋が示され、期待される実用化への一歩が踏み出されました。これからの展開に注目です。研究成果は2025年に国際学術誌「Advanced Materials」で発表され、科学界からも注目されています。
参考文献
- - 熊倉 真一, 佐藤 周平, 三浦 佑介, 久保田 圭, 館山 佳尚, Luong Huu Duc. "Synthesis and Electrochemistry of Stacking Fault-Free β-NaMnO2" Advanced Materials, DOI: 10.1002/adma.202507011.