最近の研究において、腸内菌が脳における新しい神経細胞の発達において重要な役割を担っていることが明らかになりました。この研究は、国立研究開発法人産業技術総合研究所の波平昌一グループ長と東京大学の平山和宏教授のチームが共同で行ったもので、腸内の細菌叢(腸内菌)は成体神経新生において不可欠であるとされています。
成体神経新生とは、大人の脳が新しい神経細胞を生成する現象で、特に記憶や感情に関わっていることが知られています。このプロセスに腸内菌がどのように関与しているのかが、本研究の大きなテーマとされていました。
この研究では、具体的に3種のプロバイオティクス、すなわち乳酸菌、酪酸菌、糖化菌を用いて、腸内環境が神経細胞の発達に与える影響を調査しました。結果として、これらのプロバイオティクスを摂取することにより、成体神経新生に必要な神経幹細胞の数が通常飼育下のマウスよりも増加することが分かりました。これにより、プロバイオティクスによって腸内菌叢が担う役割が補われ、脳の健康を維持する可能性が示唆されています。
この成果の重要性は、腸内菌叢が脳との「腸脳相関」に基づいて成体神経新生を調節していることを示している点にあります。腸内の細菌が腸を通じて脳に信号を送り、その信号が神経細胞の生成を促すという新たなメカニズムが示唆されました。特に、今回の研究は、統合失調症やうつ病などの精神疾患の研究においても、腸内環境を考慮した新しい治療アプローチの可能性を開くものです。
また、メタボローム解析を通じて、血中で増加した代謝物の中には脳機能の改善に寄与するものが含まれていることが確認されました。これらの代謝物が神経幹細胞の分化を促進し、発達を超える効果が認められ、腸内菌がもたらす影響のメカニズムがさらに深まってきています。
今後の研究として、プロバイオティクスがヒトの成体神経新生にも同様の効果をもたらすかどうかの確認や、行動解析を通じた記憶能力の評価も進めていく予定です。これにより、腸内菌叢をターゲットにした新たな精神的健康の維持に向けた研究が加速されることでしょう。
この研究は2024年12月16日に「STEM CELLS」誌に掲載が予定されており、研究の詳細な結果が発表されることが期待されています。腸内菌が脳に与える影響の解明が、今後の精神疾患の治療方法の革新につながるかもしれません。