昭和の記憶を科学的に解明する『神風特攻隊のサイエンス』の意義とは

2025年8月15日、終戦から80年を迎えるこの日、新たな歴史書『神風特攻隊のサイエンス──データが語る過小評価と続「空気の研究」の研究』が、話題を呼ぶことになるだろう。本書は、特攻作戦を従来の英雄的な視点だけでなく、米軍の資料やデータサイエンス的手法を用いて深く掘り下げて討論し、特攻の真実を探求するものだ。著者の金澤正由樹は、この書籍の意義を「特攻の実像を世代を超えた日本社会で再考していくための手助けになること」として語っている。

この本が生まれた背景にあるのは、2024年夏のパリ五輪での出来事だ。その時、日本の卓球選手・早田ひな選手が特攻平和会館を訪問した際の発言が、彼女自身にたいして根源的な問いを引き起こした。「生きていること、卓球ができることが当たり前ではない」という意識が、歴史について学ぼうとする姿勢を生んだのだ。この発言が、特攻作戦を巡る議論を喚起し、金澤氏はその流れを受けて本書を執筆することになった。

だが、特攻の実像を探るには、多くの誤解を解く必要がある。例えば、日本では戦時中の資料が焼却・廃棄されてしまったといわれているが、実際にはアメリカ軍が解読した暗号の中に数多くの情報が残っていた。このため、従来の研究は限られた情報の中で考察されることになり、結果として歴史の誤解を生んできた。

本書では、ChatGPTを駆使しながら、特攻作戦のデータをもとにした科学的な分析が行われる。特に注目すべきは、特攻がアメリカ軍に与えた抑止効果や、戦争終結に与えた影響、さらには特攻が持っていた意外な評価に関する考察である。日本側では語られないが、こうした視点を取り入れることで、特攻の実際の影響を明らかにしようとしている。

また、金澤氏は「空気」という概念についても掘り下げる。組織や社会の意思決定にどのように影響を与えるのか、その形成過程や今もなお私たちがその「空気」に影響される理由について考察を加えている。これにより、「特攻」という行動が、どのようにして若者たちの心に根付いたのかが理解される。

本書が目指すのは、特攻の行動を、自分たちの未来にどう活かしていくかという問いを考えさせるものである。過去の出来事をただ評価するのではなく、未来を踏まえた新たな視点で歴史を語り直すことの重要性を伝える。特攻は日本にとって厳粛なテーマだが、その真実を科学と歴史を交えながら再考することによって、若い世代に歴史を学ぶ意味を伝えられるだろう。特攻の概念は決して消えることはなく、むしろそれを学び、未来につなげることが重要だと著者は訴えている。歴史を理解し直し、未来に生かす意義を見いだすこと。それこそが『神風特攻隊のサイエンス』が伝えようとしている核であると感じる。金澤正由樹が書き上げたこの歴史書が、どのように受け取られ、未来へとつながるのか見守りたい。

本書の詳細：