花王が嗅覚解析技術を新たに開発
花王株式会社の感覚科学研究所は、消費者の生活を豊かにする嗅覚の理解を深めるために、約400種類の嗅覚受容体の反応を簡潔に解析する新しい技術、
「ScentVista 400」を確立しました。この画期的な技術は、ヒトが持つほぼ全ての嗅覚受容体を培養細胞の表面に安定的に発現させ、においに対する反応を網羅的に解析することを可能にします。
1. 嗅覚受容体の理解
ヒトの嗅覚は、鼻の内部に存在する約400種類の嗅覚受容体によって成り立っています。これらの受容体は、数十万とも言われるにおい物質から特定の香りを識別する役割を果たしています。これまでは、直接人間の鼻で実験を行うことが困難だったため、培養細胞を用いた研究が主流でした。しかし、従来の方法では、発現した受容体が細胞の内部に閉じ込められてしまい、全体のわずか1割しか解析できていませんでした。
2. 新しい解析技術の開発
今回の技術開発では、花王は受容体を細胞表面に発現させる新手法を確立しました。これにより、受容体ごとに異なるアミノ酸の配置を最適化し、ほぼすべての嗅覚受容体の安定した発現を実現。培養細胞において受容体がにおい物質を認識できる状態を作り出しました。
3. ScentVista 400の機能
「ScentVista 400」では、約400種類の培養細胞をマイクロプレートに配置し、そこに様々なにおいを添加することによって、反応を一度に解析できます。嗅覚受容体は、におい物質を認識すると光を発生させ、その光の強度で反応を確認します。この方法により、異なるにおい物質に対する受容体の反応パターンを明らかにし、においの質に応じた特徴的な反応の違いを見つけ出しました。
反応パターンの特徴
例えば、ローズオイルとゼラニウムオイルは、香りは類似しているものの、異なる植物から抽出されますが、この二つに対する嗅覚受容体の反応パターンは似ていました。また、濃度によって異なる香りを持つインドールという物質については、薄い濃度では好まれる香りを持つ一方で、濃厚な濃度では不快感を引き起こすため、反応パターンも濃度に応じて変化しました。
4. 未来への展望
この新技術を用いることで、不快な香りを識別し、それに対抗する心地よい香りをデザインすることが期待されています。加えて、香料の使用量を減少させたり、種類を削減したりすることが可能になることが見込まれ、環境への配慮にもつながるでしょう。花王は、嗅覚のメカニズムをさらに深く理解し、消費者の日常に貢献する香りの探求を続けていく意向を示しています。
まとめ
花王による「ScentVista 400」の開発は、嗅覚受容体の研究に新しい地平を開くもので、香りへの理解を深めるだけでなく、嗅覚に基づく製品やサービスの開発にも繋がります。今後の研究成果にも期待が寄せられます。