日本語と英語、二つの言語は語順や文構造が著しく異なりますが、それが人間の脳にどのように影響するか、そしてそれに伴う言語理解の予測処理についての新しい研究結果を紹介します。早稲田大学の中村智栄准教授を中心とした研究グループは、視線計測(アイトラッキング)を用いた実験を通じて、言語の予測処理がどのように進行するかを明らかにしました。この研究では、英語母語話者と日本語母語話者、さらには英語を第二言語として学ぶ日本人の参加者を比較し、特に文構造の違いがどのように予測の働きに影響を与えるかを探っています。
これまでの研究では、人は文全体が終わるのを待たずに言葉の意味を理解していることが示されてきました。そのため、言語理解は単なる翻訳作業ではなく、リアルタイムでの計算的な過程であることが指摘されています。しかし、日本語と英語のように、語順や文構造が異なる言語によって、予測のタイミングやその強さにはどのような違いがあるのでしょうか。
実験では、参与者は文とそれを描いた絵を同時に見て、視線の動きをミリ秒単位で計測しました。この実験から、特に英語では、早い段階で一つの解釈に傾く傾向が観察されました。対照的に、日本語ではその傾き方やタイミングが異なり、埋め込まれた意味の理解にばらつきが見られました。また、日本語を母語とし英語を学ぶ参加者は、母語の予測結果をそのまま適用するのではなく、英語の構造に応じて予測を調整していることも確認されました。
この研究の重要な点は、言語理解がいかに柔軟であるかを示したことです。つまり、使用する言語によって脳内の理解方略が異なることが実証されたのです。今後、この知見がバイリンガル研究や、AIの言語処理モデルにおける新たな洞察を提供することが期待されています。
本研究は、2026年3月4日付けで「Frontiers in Language Sciences」に掲載されました。この成果は、外国語を学ぶ際の理解プロセスに新たな視点を提供すると共に、今後の多様な言語間での研究の発展を促すことでしょう。言語の学習過程や、異なる文化に根ざした人々のコミュニケーションスタイルを深く理解する助けとなります。言葉の背後にある脳の働きを解明することで、私たちの理解は一層深まることでしょう。