神経性やせ症と脳機能異常の関係
神経性やせ症は、極端な食事制限を伴う摂食障害として知られています。これまで多くの研究が、神経性やせ症が精神的な要因に起因する疾患であることを明らかにしてきましたが、最近の研究では、その背後にある脳機能の異常にも焦点が当たっています。特に、神経性やせ症における脳の「島皮質」の機能異常が、食事制限を続ける行動のメカニズムに深く関与していることが示唆されています。
研究の背景
神経性やせ症は、食事制限や肥満への恐怖、歪んだボディイメージなどから極端な体重減少を引き起こす精神疾患です。米国の調査によると、この障害は女性において有病率が0.9%、男性で0.3%とされ、統合失調症を上回るほど一般的です。また、神経性やせ症の標準化死亡率は非常に高く、精神疾患の中でも最も深刻とされています。
この疾患は、食事制限による栄養不足が脳機能に変化をもたらし、それが再び食事制限を招くという悪循環の中にあります。その中でも、島皮質の機能異常がこの悪循環の核心だと考えられています。この領域は、身体感覚や内臓感覚、情動、味覚の判断に関与しており、その異常が神経性やせ症の症状を悪化させる可能性があります。
研究の概要
今回の研究は、千葉大学や東北大学、京都大学、産業医科大学、九州大学などが共同で行ったもので、対象となったのは神経性やせ症患者と健常者の124名です。研究では、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、島皮質の機能的結合性を解析しました。
その結果、神経性やせ症患者の島皮質において、味覚処理を行う一次味覚野と他の領域との機能的結合性が低下していることが分かりました。また、食物の認知的処理に関与する領域では機能的結合性が上昇しており、脳内における情報処理の異常が考えられます。
機能異常が示すもの
神経性やせ症において、味覚処理の異常は患者が「痩せていても食事制限をやめられない」という行動を助長している可能性があります。特に、一次味覚野での機能的結合性の低下は、同じ食物に対して異なる味を感じる原因となりかねません。
また、研究の結果から、制限型や過食排出型においても脳機能に差異があることが示されました。これにより、病状の進行に伴って脳内に生じる変化についてのメカニズムが明らかになる可能性があります。
今後の展望
この研究は、神経性やせ症患者における味覚処理異常の重要性を示すものであり、今後、臨床現場での病態理解や評価に役立つことが期待されています。神経性やせ症の根本的な治療に向け、さらなる研究が待たれます。
研究の重要性
本研究の成果は、神経性やせ症の理解を深めると同時に、具体的な治療戦略を考える上でも貴重なデータを提供します。味覚処理の調整が、食事行動の改善に繋がるかもしれません。これは患者がより良い生活を取り戻す手助けになるでしょう。